第6節 ③

「でモね――ひとつだけ、嫌なことがあるの。今は理性があルから、大丈夫だけど――きっと、わたしが完全に化物になったら、彼のことを襲いに行くと」


「ッ……やっぱり、本心では憎んでるんじゃないか……!」


「違ウの……。憎んでるんじゃない――かれを、わタしのものにしたいから、そうなっちゃうことが、わかるの。そうなる頃にはきっと、わたシは、わたシじゃなくて、かれのことも、ちゃんと覚えてない。そうなる前に、わたしは、わたしのままで――かれをちゃんと、愛したまま、死にたい」


「……理解、できないよ。あなた達は、どうして、何故――」


 わかってる。これが、この二人の、愛の形なのだろう。


 あの男は、恋人を実験体にするような非人道的な人間だが――完全な手遅れになるまで、他の誰の手も借りなかった。

 この人は、恋人があんな狂ったマッドサイエンティストでも――それが愛ならと受け入れた。


 このカップルに今まで何があったのかは、わからない。けれど、とてつもなく歪んた形でも――愛し合っていたことはわかる。


 愛し合っているのに、どうしてこうなってしまったのか。


 あなた達は少しだけ、間違えただけなんだ。


「……わかったよ。あなたがこのまま死にたいのはわかる。けれど、だったらどうして――僕に、殺してくれと頼むんだ? それなら、あの男に頼んだほうが――」


「……ねえ。ひとつ、聞いてもいい? ――いまの、わたしの姿って、きれいかな?」


「ッ……。それは――」


 お世辞にも、綺麗とは言えない。それは当たり前だ。彼女の姿は人の形を保っているが、それでも半強制的に変異血種ミュータントになってしまったせいで、肌は鱗のようになり髪はボロボロ、暗くてよく見えないが顔のバランスも崩れている。


「でしょう? かれに、看取ってもらえない、のはざんねんだけど。こんな、化粧もしてない、惨めな姿は……すきなひとには、見せたくないの」


 そんなことはない。あなたは今、とても綺麗だ――と言いたかった。


 人を愛する姿が、醜いはずがない。けれどそれは、薄っぺらな建前だ。

 彼女の姿は、客観的に見れば化物だ。彼女自身が言うように、とても醜い姿だった。

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