第5節 ②

「ふ、は、っふ……」


 仁後は口元から煙草を離しながら、小さく笑い出す。


「ふはっ……ああ――そこまでバレてしまったか。バレないと思っていたんだけどね」


 否定の言葉は無かった。つまり、こうが自称探偵から聞かされた推察は間違っていなかったことになる。


「……どうしてあなたの恋人は、変異血種ミュータントになってしまったんですか」


「それについては、少々話が長くなってしまうから話したくないんだけども――ここまで知られてしまっては、何故ああなったのかを君に聞かせないほうが逆に気持ち悪いからね」


 仁後にごは淡々と、自分と彼女の間に何があったのかを語りだす。


「まず一つ。勘違いしないで欲しいのだが、私と彼女はどこにでもいるごく普通のカップルだった。学生の頃に付き合い、そのまま二人とも社会人になって――もう五年近くなるのかな。そのぐらいの付き合いだった。最近は私が研究で忙しくなったのもあって、あまり会っていなかったけどね。でも連絡はこまめに取り合っていたし、最低限一ヶ月に一回はデートをする。そんな普遍的な関係だった」


 仁後にごは煙草を吸って、息を吐く。彼が口から吐き出した煙が、夜風に揺られる。


「けれど、ある時期に彼女からの連絡が途絶えてね。研究に没頭しすぎて彼女に愛想を尽かされたかな、と落ち込んでしまったが――それは私の勘違いだったらしい。三日ほどならまだしも、一週間近く連絡が取れないと流石に心配になって、彼女の家に向かったときちょうど鉢合わせしてね。無理に事情を聞いたら、どうやら彼女は、変異血種ミュータントの研究データを流用したサプリを服用してしまったみたいなんだ。一般には流通していない健康食品だ――とかなんとかの誘い文句でね。それからしばらくして身体に異変が現れだしたらしい」


「……治そうとは、思わなかったんですか?」

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