第3節 ②

 地図を頼りに発信機が示す場所へと向かう。数分後、デバイス上の地図が指し示すポイントは自分がいる場所とほぼ同じ位置に重なっていた。


「……あれか」


 波止場で佇む身長160cmほどの影。夏場にそぐわない長袖。その袖先からは、肥大化した爪が見えている。


 こうは左手にデバイスを持ったまま、右手に拳銃をいつでも取り出せるように備えつつ近づく。するとデバイスからビビッビビッというアラーム音が鳴った。仁後にごから『発信機に近づけば、対象がすぐにわかる』と聞いていたが、こういうことかとこうは理解する。


「ちょっと、いいですか」


「……?」


「えっと、ここで何してるんです?」


「…………う、み。うみ。さがして」


 こうは佇む女性に話しかけた。目が虚ろになっていて、焦点が定まっていないが危険性は感じられない。仁後にごは暴走して失踪したと言っていたが――ひと目見ただけでは、そのようには思わなかった。


(反応は薄いけど――これなら、ほぼ無傷で仁後にごさんの元へ送り戻せるんじゃないのか?)


 仁後にごは内密に処理してほしいと言っていたが、それはつまり表にバレる前に事が済めばいいということだ。だったら無事に研究所に戻すことが出来れば、それはそれでミッションコンプリートしたことになる。


「それに、治療中――だとも言っていたしね。治療と実験を兼ねていたところ、なんらかの隙があって逃げ出したんだろう」


 そう呟きながら、こうはうるさく鳴り響くアラームを止めようと小型デバイスを見る。

 だが、こうがデバイスが視界に入ったとき、女性の態度が変貌した。


「それ、ソレは……!」


「ん……? 一体な――うわっ!」


 変異血種ミュータントは、爪を立てながらこうへ向かって突進してくる。間一髪のところで、こうはその爪を避ける。後方へ下がりながら、こうは臨戦態勢を取る。


「……なんなんだよ、一体」


「かえ、シテッ……! それ、は、カレの……!」


「何か癪に障って暴走のスイッチを、入れてしまった、かなッ……!」


 変異血種ミュータントの女性は鋭い爪を持つ両手を振りかぶりながら、何度もこうに襲いかかる。こうはその連撃を避け続ける。


「――これじゃ、銃を取り出す暇もないッ……な!」


 タイミングを見計らい、こうは一気に爪を振り回す女性から距離を取る。

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