第2節 ④

「なんか、すいません。僕一人で対応してしまって。事務所内もかなり散らかってますし……ここ数日、かなり多忙で事務所内が片付けられていなくて」


「はは、うちの研究室も似たようなもんですよ」


「そう言われると、気が楽になります。……それと、敬語はいりませんよ。僕はただの高校生なんですから」


「はは、そうか……なら、遠慮なく――片萩くん。いきなり本題に入らせてもらうのだけれど、私のような研究員が、アポなしで急にこの事務所へ来たというのは――どういうことか、わかるかな?」


「まぁ……察しはついてますよ。あまり他の機関には知られたくないが、迅速に対処すべき問題が発生したので相談に来た――といったところですか」


「うん、その通り。君にはとある変異血種ミュータントを駆除してほしい。それも、内密に」


「それは、もちろんいいですけれど……理由を聞かせてもらえませんか」


「恥ずかしいことにね……その駆除してほしい変異血種ミュータントというのは、うちの研究所から脱走したモノなんだ。それで、その、逃げ出した変異血種ミュータントは特別な治療中――いや、実験中のモノでね。これが公になるとちょっとまずい」


「ちょっとまずい――とは、どのくらいですか?」


「研究所のパワーバランスが傾くレベルだね」


「それは……かなりまずいですね」


「うん。かなりまずい。……だが幸いなことに、個体管理用に埋め込んだタグに、発信機はつけてある。これがその発信機を追うためのデバイスだ」


 仁後はテーブルの上に、手のひらほどのサイズの機械を置く。


「……? これはケータイ……ですか? それにしては液晶画面が大きい気がしますが」


「そうか、超小型のノートパソコンみたいなものだよ、これは。発信機から放たれた電波を衛星を経由して受け取ることで、内蔵している地図ソフトから位置を測定する。ケータイとしての機能も後々追加される予定だが、現段階ではまだ普及できていないのだけれど」


「ああ、そういえばこれと似たようなものを見たことある気が……」


 高校の同級生の一人がコレと似たようなケータイを自慢していたようなことを思い出す。残念なことに規格がこの国には合わないので文鎮状態だと言っていた。


「ふーん……これがケータイ、ね。普通のケータイより大きいし、なんだか使い勝手が悪そうに見えますけど」


「慣れればそうでもないよ。……と言いたいところだが、現状では使いにくいのは否めないね。ただ追加できる機能は自由度が高いから、もう少しコンパクトになれば一般的にも普及すると思うよ」


「そういうもんですかね……とりあえず、お借りします」


「うん、大事に使ってくれよ。使い方についてだが……簡単だから、すぐに覚えられるだろう」

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