第1節 ③

 銃口から硝煙が上がる。少年が装備していたのは右手に持つ自動式拳銃だけではない。


 少年が左手に持つのはリボルバー式の拳銃。使い勝手は劣るが一発の威力はオートマチックのものより高い。そして、今しがた使った拳銃に込められていたのは、特別性の銃弾だった。それは、突然変異した化物を殲滅するための〝銀の弾丸シルバー・バレット〟。右手に持つオートマチックに装弾している量産品ではなく、特別製の銃弾。


 だが心臓部に弾丸が直撃したというのに、怪物は未だ動きを止めない。立ち上がり、少年へ向けて牙を向ける。先程のような威迫は無くなっているが、それでもしばらく放置すれば回復してまた襲いかかってくるだろう。この〝怪物〟は、そういうものだ。


 躊躇わずさらに数発、リボルバーに込められた〝銀の弾丸シルバー・バレット〟を地面で唸り声をあげる怪物へと撃ち込む。そこまでしてやっと、怪物の動きはほぼ完全に停止する。だがまだ息はある――いや、例え息をしていなくても、この〝怪物〟はまだ生きている。

 きちんとトドメを刺すために――少年は、怪物の背中で蠢いている丸い内蔵のような肉塊に銃口を定める。


「――さよならだ」


 銃声が鳴り響く。ビチャリと肉片が飛び散る。化物になりかけていた野犬だったモノは、ピクリとも動かなくなった。

 少年が今しがた破壊したもの――それは、この怪物の〝核〟だった。核を破壊されれば、この〝怪物〟は生命を維持できなくなる。


「ミッションコンプリート――今回は比較的、楽だったな」


 少年はひとりでに呟く。そして、後処理のために〝怪物〟に近づく。

 遠目に見ていたときはわからなかったが、野犬だったモノには首輪がついていることに少年は気づいた。


「……運が悪かったね。君も」


 少年は呟く。誰に聞こえるわけでもなく、誰に聞かせるわけでもなく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る