第1節 ②

 少年は、怪物の元へと走り出す。

 何かが近づいてくる音を察したのだろう。怪物と化した野犬は、伏せていた状態から立ち上がり唸る。


 その瞬間、まずは一発。自動式拳銃から放たれた弾丸が、怪物の身体に突き刺さるように命中する。

 通常の野犬ならば、拳銃の弾丸が当たったらそれだけで致命傷足り得るだろう。だが銃弾が当たったのはもう普通では無くなってしまった怪物だ。


「■■――――」


 少年が放った銃弾は、致命傷には至らなかった。怪物は銃弾によって傷ついたのにも関わらず威嚇するように吠える。声帯がもう犬種のソレとは大きく違っているのだろう。まるで猛獣のような咆哮だった。


 ひとしきり咆哮を吠えた怪物は、己に攻撃を仕掛けた何者かの気配を音と匂いで感じ取ると――その敵対者へと向かって突進を開始する。

 少年は怪物と一定の距離を保つよう走りながら、二発、三発と、さらに銃弾を怪物の肉体へと撃ち込む。


 しかし、怪物の動きが休まることは無い。頭部、胴体、臀部の位置に命中したはずだが、それでも致命傷には至っていないらしい。怪物は銃弾で怪我を負って苦しいから唸っているのではなく、自分の身体に異物を入れ込まれたから・リラックス状態の邪魔をされて不快だから唸っているようだった。


 だが少年が四発目、五発目の銃弾を放つと、状況は変化した。少年が放った銃弾が肥大化し異形となった怪物の背中に命中したとき――怪物は、先程とは比べ物にならないほどに不快感を示したような咆哮を上げる。


 よほど癇に障ったのだろう。怪物は猛スピードで走り出し、少年へと一直線で向かっていった。そして怪物が1メートルほど跳躍し、少年を噛み殺そうかと飛びかかってきた瞬間――


「■■■■―――――ッ!」


 怪物の胸元に、少年が先程使っていたものとは違う銃弾が撃ち込まれた。撃たれた衝撃で怪物は少年への噛み付きが失敗し、その身体は地面に叩きつけられる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る