第二章 純真/片萩劫

0/純真

0/純真 ①

 彼はね、勇者に成り損ねた少年だよ。

 化物でありながら勇者でもある――そういう運命を辿るはずだったのに、そうはなれなかった者だ。



 彼は生まれながらにして世界を救うための勇者であることを定められた少年だった。

 ほら、ベタだけどよくあるだろう? 十六歳になったら勇者として旅に出るように促される。彼はそれだ。尤も彼の場合は、この世界にいないものを人為的に作り出そうとした存在なのだけれどね。


 この世界に勇者なんていない。だからこそ、あいつらは彼のような〝人でなし〟を作り出そうとしたとした。

 世界のルールに叛逆するようなものを、世界のシステムに則って作り出そうとするなんて、愚かにも程があるとボク思うのだけどね――それも人間という種族に課せられたさがだ。ボクはソレを否定はしない。


 けれど、彼はそれを否定した。たった一人の少女のためにね。

 お姫様を救うために、勇者になることを諦めた。それがあの少年だ。

 あの施設での出来事が、絵本の中の物語だったのなら――彼も、彼女も、救われたのだろうけどね。


 現実はそうはならなかった。

 いずれこの世界を救う勇者になるべく作られた少年は、己の役割をかなぐり捨てまでしたのに少女を救えなかった。

 化物として世界の供物として捧げられるはずだった少女は、たったひとつの恋が報われることはなかった。

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