第0節
第0節
その日わたしは、もしかしたら飛び降りようとしていたのかもしれない。
中学に入学して半年ほど。友達はたくさん出来たけど、その分みんなの相談に乗ったり、友達関係の橋渡しをしたり、気がつけば「この子がいれば何でも解決」みたいなポジションになってしまった。
「はぁ……」
そんな自分が、とても嫌になっていた。
たまに気分転換で屋上にやってくるのだけれど、それでもあまり気分は晴れない。だから、
「ここから飛び降りたら、楽になれるのかなぁ」
思わずフェンスの向こう側を見て、そんなことを呟いてしまった。
だけど、この学校の屋上のフェンスはとても高く設定されているので、ここから飛び降りることなんてまず不可能だ。屋上にあまり人がいないのも、このフェンスのせいで景観があまりよくないせいだと聞いた。
「まぁそうだよねぇ。ここに来てもあんま気分、晴れないし……いっそのこと、このフェンスを登ってみたら楽に、な、れ……」
そんなことを呟きながら、フェンスを見上げていた。そして、おそろしいものを見た。
そんな高いフェンスの上に、座ってる女の子がいる。
「え、えー! な、ななななにしてるの! だ、だめだよ思いとどまって!」
私は必死でその女の子に向かって叫び続ける。いやいや、確かに飛び降りてみたいとかフェンス登ってみたいとか思ったけど、まさか本当に実行してる先駆者がいるとは思わなかった!
「おねがーい! 死のうとしないでー!」
「はあ……」
フェンスの上に座っていた女の子は、わたしの必死の呼びかけに応えてくれたのか、とても身軽にフェンスの上から降りてきた。
「ああ良かった……思いとどまってくれた……。ダメだよ! わざわざフェンス登って、飛び降りようなんてしちゃ!」
「いや、別に飛び降りようなんて思ってなかったんだけど……」
「え、あ、そうなの? あ、あっちゃー早とちりかー……いやでも、あんなとこに座ってたら危ないでしょー! やっぱダメ!」
「……確かに、それは正論」
フェンスから降りてきた女の子は、わたしより小さい女の子だったから、意外だった。この小さな身体でどうやってフェンスの上までよじ登ったんだろう?
「あの、あなた……一年生? でもわたしと同じクラス……じゃないよね」
「うん。一年生だよ。クラスは、多分一緒じゃない」
だよね。こんな透明感あるけどインパクト強い女の子、同じクラスにいたら絶対に忘れないし。
「それじゃあね。わたしはもう戻るから」
ってもう帰るんかい! 早いわ!
「あ、あの!」
「……? まだ、何か?」
思わず声をかけてしまった。ええと、なんだ、こんなとき何言えばいいんだ。
「わたし、穂村結花! あなたは?」
自己紹介をしていた。わたしの阿呆!
「……神倉、沙月」
しかし意外にも、彼女も名前を教えてくれてから、屋上から出ていった。
そして私はたった一人、屋上に取り残されたわけなのだけれど。
「…………すごく、魅力的な子だったなぁ」
なんだか不思議なあの子に、すっかり魅了されてしまった。
でもこうやってあの女の子に出会ってなかったから、あの子の代わりにわたしがフェンスをよじ登って、うっかり飛び降りてたかもしれない。
だから私は、あの子と――神倉沙月さんと、いつか友達になれたらいいなと思った。
その日まで私は、頑張って生き続けようと決めた。
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