第5節 ⑦

「……もう、助から、ないんだね」



 結花が、沙月の表情から全てを読み取り、自分の最期を悟った。


「……嫌だ。助ける……! 絶対に助けるから!」


 駄々をこねる子供のように「絶対に助ける」と唱え続ける。けれど、その呪文は神様には届かない。


「神倉さん……わた、し――ともだちになり、たかった……あなたみたいに、なりたかった……」


 結花は、最後の望みを呟く。

 それは、ささやかな望み。

 密かに憧れてた少女に対する、少しだけの我儘。


「ねぇ……。かみ、くらさん、わたし、最後は……化物になっ、ちゃった、けど……。あなたと、友達に……なれた、かな……?」


「ッ……!」


 化物だなんて、あの程度――自分と比べたら、まだ、人間だった。

 最初から、世界に否定された存在であるのほうが、化物なのだから。


「私も……私も、化物だから! 友達だよ! 友達に、なれたんだよ! だから、だから」


「……そっかあ。ア、ハハ……。だっ ら、よか た……さつ ちゃん、あ 」


 結花の言葉は、最後まで聞き取れなかった。


「穂村さん……?」


 話しかける。何か、反応があると信じて。


「嫌だ。ねぇ、嫌だ。答えて。答えてよ」



「……結花ちゃん」



 返答は、なかった。

 かわりにあるのは、うっすらと開いたままの瞳と。

 半開きになった乾いた唇。

 そして、力が抜けて重たくなった身体。


 穂村結花という人間だった少女は――

 二度と、動かなくなった。



「あ、」


「ああアあ、ア、あ――」



「■■■■■■――――――!」



 少女は、叫んだ。

 それはまるで、獣のような咆哮でもあり。

 人が絶対に生み出すことが出来ない、自然だけが生み出すことができる轟音のようでもあり。


 けれども、人らしく、人であろうとする人でなしであるが故に発することができる――

 悲しい、叫び声だった。



(――ああ、そうだ。私は化物だ。

 化物は、孤独でなければならない。

 だから、私に――友達なんてもう、いらない)



 そう思った。

 思わなければ、ならなかった。

 想わなくなれば、よかった。

 だから、これは涙じゃない。

 化物に、涙なんていらない。



 少女の悲痛な叫びは――暗闇へと溶け込み、やがて消え入った。

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