第5節 ⑥

「みんなとは……友達だった、けど……けど……だから、どうしようもないものが、たくさん見えちゃって……そういうのが少しでも変わるかなって、そう思って……ちょっとだけ、こわい子たちとも……かかわって、みようかなって……」


 結花の声は、耳を傾けなければ聞こえないほどに小さく、掠れていた。


「でもやっぱり……こわくて、だから……神倉さんと、いっしょなら……こわくないかな、って……ほんとに危なそうなら、いっしょに、バックレたら……いいか、なって」


 数粒の涙をこぼしながら、結花は吐露する。


「ごめん……ごめんね……そういう、打算的なのわかってたから……ことわったんだよね――」


「ッ違う……! 違うよ! そんなの、わかるわけない! 言ってくれないと――そこまで言ってくれないと、わからないよ!」


「そうだ、よね……わたしが、神倉さんに、かってに期待してた、だけで、」


「私と一緒にいるときも、ずっと笑ってたから……穂村さんは明るくて強い人なんだって、勘違いしちゃったんだよ! ちゃんと、悩んでることがあるって、怖いこともあるんだって――言ってくれてたら、相談にも、乗ってあげられたのに!」


 沙月は泣きながら、劫に電話をかけていることも忘れて結花の身体をぎゅっと抱いた。


「……そっ、か。そっかあ……」


 冷たくなっていく結花の身体を抱きしめて、沙月は気づいた。結花の心臓の鼓動が、どんどん弱くなっていることが。


「やだ……嫌だ……!」


 結花の身体を抱きながら、弱くなっていく鼓動を感じていると、携帯電話からコール音が鳴り響いた。

 コールをかけてきたのは、劫だった。沙月からの呼び出しに気づいたが、通話が繋がらないことを不自然に思って、逆に掛け直してきたのだった。

 沙月は携帯電話を手に取り、通話を繋げる。


『沙月ちゃん。話は先生から聞いた。今、どんな状況だ?』


「コウさん……! お願い、助けて――。クラスメイトが、変異血種になって、右腕が、なってて。だから私、穂村さんを元に戻したくて、斬って。それで、心臓の鼓動が、どんどん、弱くなって――」


『沙月ちゃん。落ち着いて話してくれ。そのクラスメイトの、核はどこにある?』


「核、核は、右腕にあったから――右腕を斬って、それで、まだ動いてたから、壊して、それで」


『…………』


「劫さんッ……! 穂村さんは、助かりますよね!? 変異核の部分を切除したから、もう人間に戻れますよね!?」


『……もう、手遅れだよ』


「そんなことッ……見てもないのに、わかるわけないじゃないですか!」


『……わかるんだよ。君が、彼女の変異部分を切除した時点で――』


「え……」


『ついさっき、僕が先日処分した野良の検死結果を見た。人工変異型の中でも珍しい、寄生種らしい。寄生した先から、突然変異を起こす――今回の場合は、出回ってる薬を注射した部分からだ。そして、突然変異し始めた部分を核として、宿主の身体を変異させていく。変異から一時間もすれば、その核は寄生先の生命維持能力を、果てには正常な思考能力を奪い取る』


「生命維持、能力を……?」


『……彼女はちゃんと会話ができているみたいだから、変異は脳髄にまでは届いていないようだ。けれどおそらく、その様子だと心臓部はもう――』


「それ、じゃあ……」


『……ああ。その少女は、もう助からない』


「……ッ!」


 ガシャンと。手の中から、携帯電話を滑り落とす。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る