第5節 ④

「……きれい」


 純真なその一言は、鮮血に染まった少女の口から、こぼれ落ちた。

 何人もの血を浴びて、きたない赤に染まった自分と違って、沙月の周囲に散らばる赤色は、彼女自身の血液だけだった。


 さきほど自分で切った左腕から、まだ流れ出している彼女の血。

 地面に叩きつけられたりこの右腕に叩かれたりして、傷を負った身体についた泥や砂。

 彼女が右手に持つ、紅い刃紋が光る刀。


 それらが月明かりを受けて歪にも輝き、神倉沙月という少女を、とても美しく魅せていた。


 反撃を、しようと思えばできたはず。

 彼女の小さな身体を振り払ったり、地面を思いっきり叩いてその勢いで避けたり、どうにでもできたはず。


 けれど、そんなことをしなかった。

 否、出来なかった。

 穂村結花という人間は、月明かりに照らされた神倉沙月という異形の姿に見惚れていた。



 ――ああ、なんて綺麗なんだろう。

 ――わたしも、あんな風に。



「なれたら、よかったのに」

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