第5節 ④
「……きれい」
純真なその一言は、鮮血に染まった少女の口から、こぼれ落ちた。
何人もの血を浴びて、きたない赤に染まった自分と違って、沙月の周囲に散らばる赤色は、彼女自身の血液だけだった。
さきほど自分で切った左腕から、まだ流れ出している彼女の血。
地面に叩きつけられたりこの右腕に叩かれたりして、傷を負った身体についた泥や砂。
彼女が右手に持つ、紅い刃紋が光る刀。
それらが月明かりを受けて歪にも輝き、神倉沙月という少女を、とても美しく魅せていた。
反撃を、しようと思えばできたはず。
彼女の小さな身体を振り払ったり、地面を思いっきり叩いてその勢いで避けたり、どうにでもできたはず。
けれど、そんなことをしなかった。
否、出来なかった。
穂村結花という人間は、月明かりに照らされた神倉沙月という異形の姿に見惚れていた。
――ああ、なんて綺麗なんだろう。
――わたしも、あんな風に。
「なれたら、よかったのに」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます