第5節 ②
直後。沙月はその身に衝撃を受けて、その身体が数メートル後方へ吹き飛ばされた。
「かっ……は……」
何が起きたのか。結花を諭すことに夢中になっていて視認することは出来なかったが、沙月は自分の身に何が起きたのか即座に理解した。
「アハ。――気持ちいい、かも」
異形化した結花の右腕が、沙月の身体をはたき飛ばしたのだった。
地面に転がったせいで、上着のパーカーに砂と泥がこびり着いた。洗濯するとき、苦労することになるだろう。
「ッ……」
沙月はゆっくりと立ち上がり、結花を見つめる。
「アハハ――スゴイなぁ、神倉さん……全然、無事なんだ。なんか他の人と違うって思ってたけど、やっぱりそうだったんだ……」
穂村結花という人間だった少女はもはや、感性も人間のソレとはかけ離れてきているようだった。
(だけど、まだ――助ける方法があるはず)
思い出せ。思い出せ。
穂村結花という少女は、薬物摂取で突然変異している。
最初っから
だから、思い出せ。
助けられるかもしれない方法に繋がる何かを。
思い出せ、思い出せ、思い出せ
何か、何か――
『
センセイから昔、教えられたことを思い出す。
それぞれ、どんな特色があるのかということ。
そして、薬物投与などが原因の人工変異型の特色は――
『人工変異型はまず変異核を作って、そこを中心に突然変異していくことが多いの。それは核を作らないと、変異がまばらになって安定しないのが理由なんだけど――』
「核……」
そうだ。思い出した。
だったら、あるはずだ。
あの異形化している、部分のどこかに――
「あった……!」
数メートル先、結花がふらふらと揺らしている右腕を凝視し、核と思わしき部分を見つけた。
この時ほど、
だがあの核だけを破壊するのは、おそらく不可能だろう。結花の腕の大きさと長さは通常の人間の数倍になっており、野球ボールほどの大きさの核だけをピンポイントで破壊するのは難しい。
(だったら、あの腕をまるごと身体から切除すれば、穂村さんはまだ助かるかもしれない――!)
確証はない。けれど、あのまま放っておいたら侵蝕が悪化して取り返しのつかないことになるのは明白だ。
片萩劫が向かった研究所は、事務所から見て此処と反対方面。連絡を受けても間に合わないだろう。
センセイも、少女の保護と機関への連絡で今すぐには来られないだろう。
ならば。
誰が、やらなければらないのか。
(――もちろん、私だ。私しかいない)
沙月は、奥歯を噛み締める。
結花の変異した右腕を切除しただけじゃ、彼女は助からないかもしれない。
そもそも、そんなことできないかもしれない。
――違う。できるとか、できないとかじゃない。
やらなくちゃ、いけない。
友達を、救うために――!
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