第3節
第3節 ①
「ちょっと遅くなっちゃったかな」
買い出しを済ませて帰路に着くと、沙月は独り言を呟いた。
プリンや牛乳、晩ご飯用の弁当だけでなく、ついでに枯渇しかけていたいくつかの日用品も購入したので、遅くなった。スーパーマーケットに立ち寄ると、こうしたついでの買い物もついついやってしまう。
おかげで、両手がレジ袋で塞がっていた。
こんなとき、何かに襲われたり事故にあったら身を守れないなと思った。
「野良に出会ったら、ね…‥」
スカートのポケットの中に入れた護身用ナイフの重みを感じながら、沙月はセンセイに忠告されたもしものことを思い出す。
そんな出来事は、そうそうないだろう。だけど最近、野良が現れたという報告がやけに多いのも事実だ。
それはこの地域だって例外じゃない。事務処理がやけに多いのも、きっとそのせいだろう。
センセイが言っていた〝野良〟とは、突如として街中に出現した変異血種のことである。
通常、
その兆候がある人間や動物が確認されれば、研究機関が保護・観察しに向かうことが常々だ。
だがそういった兆候が周囲にバレないようにしていた、研究機関から漏れ出したデータが一般人に利用された、急な自然現象が原因で変異したなどで、予想外の変異血種が現れるときもある。
特に多いのが、どこからか漏れ出した研究データを元にして作られた薬物を、一般人が服用してしまうパターン。
ヤクザやマフィアなどの裏社会の組織がそういった薬物を使用するのなら、彼らも極力バレないように徹底するので、よっぽどのことがなければ、その類が野良になることはない。
だが半グレやクスリの売人、少しハミでた若者の集まりなど、そういった表とも裏とも言い難い部類の一般人が、変異血種化の薬物を入手した場合が一番危険性がある。
裏の組織としてもみ消すことも出来ず、かと言って表沙汰に出てくるほどに目立っているわけでもない。そんなところで偶然生まれてしまった変異血種が、〝野良〟になりやすい。
「ま、そんな簡単に出会わないよ、うん」
沙月はそう呟き、いつもと変わらない帰り道を歩く。
だが公園の近くを通りかかったとき、沙月はいつもと違う違和感を感じ取った。
「……このにおいって」
勘違いかもしれない。
けれど、うっすらと、血の匂いがする。
「一応、ね」
沙月は買い物袋を左手にまとめて、護身用ナイフをいつでもポケットから取り出せるような状態を保つ。
沙月は予想外の人物と遭遇した。
そう、彼女は確か――。
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