第1節 ②

「………………」


 絶句。

 なんて、ストレートにものを言う子なのだろう。


「ありゃ、こういうの……迷惑だったかな?」


「迷惑だなんて、そんなことは流石に、別に――」


「ほんとに? 迷惑じゃない? じゃあ、神倉さん――わたしと、友達になってくれる?」


 結花は、無垢な笑顔で沙月を誘う。

 しかしこういったことに慣れていない沙月は、素朴な疑問を口に出してしまう。


「友達になるって、どういうことなんだろ」


「え、そこから!? えー………うーん、うーん? 一緒に遊んだら友達、かなあ……? え、あれ、わかんない……なんとなく、みんな友達だと思ってるし……」


 結花は頭を抱えて唸りだす。沙月は「余計なこと言っちゃったかな」と思い、少し後悔する。

 しばらくの間、結花はウンウン唸っていたが、そのうち考えることを諦めて、「ま、いいか!」の一言とともに吹っ切れた。


「ね、神倉さん――今日はさ、放課後の予定とかある?」


 吹っ切れると同時、結花は沙月を遊びに誘うために聞く。


「……ごめん。今日の放課後は、ちょっと」


「ありゃりゃ、予定あったか。ざんねーん」


 結花はあちゃーと言いたげたな顔をしたが、まぁ仕方ないと納得をして、沙月のことを知るために質問を始めた。


「予定って、塾とか?」


「違うよ」


「うーん……もしかして、彼氏?」


「それは、絶対にない」


「んー? んー……じゃあバイト、とか?」


「…………えっと」


 バイトという表現は、割と近い。

 けれど、どう答えればいいのか迷う。


「え、もしかして図星? あれ、でも中学生ってバイトとかしていいんだっけ?」


「……バイトっていうか、居候先の仕事のお手伝いだよ」


 上手い返答を思いつくことができず、沙月は事実そのままを口から零すことになった。


「へぇ、へぇ……初耳だなー。神倉さんってどこに住んでるのかなーって思ってたんだけど、まさかそんな答えが返ってくるなんて」


 こんなことまで言うつもりはなかったのだが、結花の質問責めと、彼女のフレンドリーな態度に気が緩んでしまった。自分が居候していることは教師にしか知られていないし、ましてやそこの仕事を手伝っていることは、よっぽどのことがなければ教えないし、内容については絶対に話すことはない。


「だったら仕方ないなー。実は今日ね、クラスの子や学校の先輩たち何人かと、みんなでカラオケ行く予定だったんだ。神倉さんも一緒にどうかなーって思ったんだけど」


「……それ先に聞いてたら、予定なくても断ってたよ」


「え、なんでー!」


「なんでもなにも、そんなの――」


 沙月は、口から出しかけた言葉を喉奥に引っ込める。


 ――そんなの、私には似合わない。

 みんなで、大人数で一緒に楽しくなんて。

 自分が、逸れ者だというのを自覚してしまうだけだから。

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