第2話 無気力彼女は嫉妬する
大学一年の夏、俺櫻庭伊月は不慮の事故により入院し、生死の世界をさまよっていた。
手術の時待合室にいた雫曰く、「ずっと息もしなかったのよ?手術が失敗すれば死ぬとも言われて……なんであなたがこんな目に合わなきゃいけないのよ……」とのこと。
俺としては事故の時からの記憶が曖昧で、死んでも別に苦しくはなかっただろうという冗談を言えたほどだった。(ちなみに、その時はすごく怒られて口をきいてもらえなかった)
「ま、まぁ……愛ある言葉だと思えば……」
「よぉ、伊月!今日の分の課題終わったか?俺はもちろん終わってないぜ!」
「聞いてないし、お前忘れたのかよ?俺今日の課題昨日雫と一緒に終わらせたってメールしたはずだけど」
「なん……だと!?」
そういうと、俺にいきなり話しかけてきたうえに、俺を同志だと勘違いした困った頭の持ち主である冴島幸助は自分のスマホを確認するとがくりと落ち込んだ。
「課題……終わったのか?」
「おう」
誰と一緒だと思ってんだ、雫だぞ?大学一の秀才だぞ?終わらないはずがないのだ。
「ついでにいちゃいちゃしたのか?」
「おう」
彼女と勉強してるんだぞ?眼鏡はめて、お風呂上がりの艶々した髪とか興奮しないでという方が無理な話だ。
結論……いっぱいシました。
「くそ、このリア充がっ……!」
「非リアの時は悪口のつもりで言ってたけど、実際リア充になった後それ言われても別に心痛むとかはないな」
「お前なぁ……お前と雫ちゃんがいちゃいちゃしてると不都合な奴がいることを知っておいてくれよ……俺の妹とか」
「は?なんで?」
「いやもういいわ、このラノベ主人公め」
悪口のつもりなのかもしれないが、べつに言われて腹立つとかはないな?
……あ、でも、こいつの悪口言ってる時の顔は腹立つわ。
「はーあ……高校三年の卒業式に告るとか、お前どこのラブコメの主人公だよ」
「しかも成功するとは……俺のことながら、奇跡としか言いきれねぇ……」
「は?お前相手が自分のこと好きって気づいたから告ったんじゃないの?」
「え?あいつ高校生の頃俺のこと好きだったの?」
「知らないで告ってたのかよ………あいつがモテてたのは知ってるだろ?」
「あ、はい」
雫は、学年問わず色々な人に告られては振る、モテ子だった。
その振り方に感情がこもっていないことから付いたあだ名は『アイス・メイデン』。
そのあだ名に違わない振り方を俺に告られるまで続けていたのだという。
「そのたび言ってたみたいだぞ?『私には好きな人がいるから……え?誰かって?同じクラスの櫻庭くんだけど』ってな?」
「は、はぁ?それ俺聞いてないんだけど!」
「言うわけないだろ?お前に彼女できるとか絶対嫌だったし」
「お前なぁ!」
「ま、相手の方はそれ知ってたみたいだぞ?二組の女子が広めたらしくてな」
「なんで相手には伝わってんだよ!」
「いやな?それ言うたびに照れる雫ちゃんを見るのがみんなの楽しみになっててな?」
「ふざけんな!俺も見たかったわ!!」
彼氏の俺でも知らないことをなんで他の男子が知ってるんだよ!
とか、やり取りをしていると、雫が俺の隣に歩いてきた。
「何を朝から大きな声を出しているの?」
「お、雫!いやな?こいつがお前のテレ顔知ってるとか羨ましいことを言ってきやがるもんだからさ」
「っ……そんなバカなこと言ってる暇があるのなら、今日の予習でもしたら?昨日の苦手分野も解らないままにしてるんでしょう?」
「ぐぬ……ま、まぁ、そうなんだけどさ?あれ?なんでお前後ろ向いてるんだ?」
「なんでもないから……こっち見ないでよ?」
「なんで?」
「なんででも」
さっきの話で怒っちまったのか、雫はこちらを向く気配すらない。
幸助に至っては一人だけ何かわかったような顔をしながらニヤニヤしている……物凄く殴ってやりたい。
「幸助……お前」
「おっと何も言うな!邪魔者は消えてやるよ!」
「いやそうじゃなくて……」
「じゃ!がんばれよ!
「話を聞け……って、もういないし」
「冴島君……忙しい人ね」
「幼稚園の頃からああなんだよな……あれでサッカー部のエースだからすごいよな」
うちの大学はサークルと呼ぶのではなく、部活と呼ぶことになっている。
なっているというか、いつの間にかそうなっていたのだという。
「私だって、こう見えて家庭研究部の部長なのよ」
「いやぁ……雫はなぁ………」
「何か不満でも?」
「まぁ、しいて言うならお前の場合、大体のことこなしてる優秀人材っぽいから意外性無い」
「……何もかも知ったかのような口調で言うのね……」
あれ……?雫なんか怒ってる…?
なにかまずいこと言ったかな?
そんな風に考えていると俺の考えていることなんてお見通しと言うように雫は俺の頬に手を当てて言った。
「でも、解りきった顔で斜め上を行くあなたを見ているのも私好きなの」
「し、雫?」
「だから……別に私の態度に今頃になって変に意識する必要ないでしょっていうことよ」
「あ……バレた?」
「あなたの考えていることは何でも知っているわ………」
「へぇ!!」
「………この後女の子と約束があるっていうことも」
「へぇ……ん゛!?」
あまりに衝撃的破壊力のある言葉に俺はむせ返ってしまった。
「何言ってんだ!?」
「この後この教室で二人っきりで会うのでしょう?」
「この後二人っきりで……そりゃ面談のことだろう!?」
「ふふ……冗談よ」
こいつの冗談は顔に出ないから全然わからん………だけど、なんというか…まぁ…。
「でも…先生だからって妬かない訳じゃないのだから………」
「だから……?」
「あんまり………イチャイチャしないでね?」
彼女は不安げな笑顔を俺に向けた。
なぜだかわからないが俺はこの笑顔を尊く思ってしまった。
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