第7話 お金が貯まりました

 スーパーのバイトを通して宗介が知ったことは世の中、普通にアルバイトしている人がたくさんいること。そして、給料が安いと評される小売業でも頑張っている人がたくさんいることだ。


 小学校で当たり前のように100点を取る。中学校で夏休みは毎日5時間勉強する。良い高校に入り、良い大学に行く。そして最後は良い企業に務める。これがすべてだと思い込んでいた。新卒の給料は20万円以上、ボーナスは100万円以上、そんな東京の上場一部企業に入ることがすべてだと思っていた。しかし、宗介は野球部を辞め、挫折し、イラストレーターになろうと決めた時から違う生き方を見つけてしまった。それはどうしようもなく不器用で、世渡り上手な人から見れば道端に落ちている宝石を拾わずに石ころを拾っているようなものかもしれない。それでも宗介は、その芸術という曖昧でもやもやしたものに、例えればただの石ころに心を奪われてしまったのだ。石ころは石ころでもまったく同じ形をした石はない。人が価値ありと認めた宝石は、何十万、何百万と値が付けられるが、宗介は石ころのようなただ同然で手に入るものに唯一無二の価値を見出してしまった。世の中に一つとして同じものがない存在オリジナルの芸術作品は、周りの人から見ればゼロ円に等しい。けれど宗介はタダで作れるそれらが宝石のようにキラキラしていることに気づいた。


 本気でイラストレーターになれるとは思っていない。けれども紙くず同然の自分の描いた絵が、心臓を、鷲掴みにし、なかなか離してくれない。良い高校に入り、良い大学に行き、大企業で莫大な報酬を得るのとは違った達成感を味わってしまうのだ。


 話を元に戻そう。アルバイトを通して、高校の、周りの一流企業を目指す受験生とは違った価値観に浸食されてしまった。周りの高校生たちがテストの点数を一点でもあげようと電車の中や家で学習しているのに対して宗介はキラキラ輝く宝石がもっときれいになるように絵の練習をするのであった。東京大学、京都大学、早稲田慶応、東工大、一橋、阪大、医者、弁護士、税理士。周りの連中が死に物狂いで勉強しているさなか、今までの勉強を放棄してきた宗介にとっては、もはやどうでもよいことであった。頭の良い人は勉強して良い大学に行って良い就職先を見つけて勝手に年収1000万でも2000万でもなって偉くなってください、と言わんばかり。他人は他人。自分は自分なのだ。


 他人が限られた枠の宝石を奪い合っている中、宗介はアルバイトという環境で自分だけの石ころ探しに奔走していた。


 大卒は正社員になることが正義だと教えられる。なぜならフリーターと正社員では生涯賃金が一億二千万円ほど違うからである。また、福利厚生、退職金など様々な利点がある。けれども世の中、正社員じゃない人であふれている。そもそも女性は結婚を機に寿退社するのが普通であり、(近年、労働環境改善により出産しても休職扱いになるホワイト企業が増えてきたが)長く正社員でいることは難しい。だからどうしたというのだろうか? アルバイトを通して、宗介はセンター試験を受けない高校生という存在と触れ合ってきた。彼らは生き生きしていた。高校を卒業後、就職や二年生の専門学校に行かれるのだが、彼らはセンター試験を受けなくても偉く立派だ。進学校に入ってしまった宗介よりも仕事ができる。勉強ができることと仕事ができることは違うのだ。クリエイティブじゃない単純労働では圧倒的に時間の蓄積が必要になってくる。職人気質というかプロフェッショナルというか、一つの仕事を極めるのに1万時間の法則を使わさせていただく。どんな人でも毎日8時間、約3年とちょっとで1万時間の仕事のプロになれる。そこに頭の良さはあまり関係がない。継続こそが力になるのが仕事なのだ。


 さて長々と語ってしまったが、宗介は、とどのつまり、何が言いたいのかというとバイト先のスーパーではパートのおばちゃんたちがあふれており、彼女様らは家庭を持ったリア充が多く、人生が幸せそうだった。賢母良妻のお手本のような女性が多く男女差別と非難されるのを承知で発言するが、女性はそこまで勉強しなくてもよいんじゃないか? と思われた。んで年収1000万円を超えるのに学歴は必要だと思ったが、偉くなるのに学歴は必要ないと感じた。中卒でも勉強嫌いでも偉い人はたくさんいる。机にかじりついているだけが人生じゃないように感じた。例えば医者とか弁護士とかやりたいことがあって勉強する人はすごいと思うが、やりたいこともないくせにただ周りに言われたからと目的もなく勉強する人はすごくないと思った。もちろん勉強のできる人は尊敬できる。だけれども人生において成し遂げたいことのない人は時間を無駄にしているように感じた。宗介のやりたいことに勉強は必要ではなかったので、即刻諦めた。最後に、バイトはめっちゃ疲れた。


 なんだかんだ一か月ほどで給料がもらえ、目標の金額が貯まった。


 もう一度。スーパーのバイトと思って甘く見ていたが、精神的にめっちゃ疲れた。

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