第3話 Plan=計画

 宗介は手始めにイラストの教本を買ってきてパラパラとめくった。プロのイラストレーターが作成した教本は、なるほど、実によくできている。美術学校出身の渾身の解説が付いており、漫画イラストよりは写実的なデッサンに近い描き方が書かれていた。漫画を学ぶ前に人体の構造を学び、上腕二頭筋や腹筋、骨格の描き方などがのっていた。


 二冊目をパラパラとめくる。宗介が欲しているのは確かにイラストの描き方だが、一冊目はこれじゃない感があった。一冊目は実に分かりやすい、しかし、萌え絵ではない。宗介が描きたいのは可愛い女の子であり、萌え絵であり、巨乳や絶対領域などであった。とにかく可愛い女の子が描きたい。宗介の欲望はとどまることを知らず、二冊目はおっぱいの描き方が享受できる本だった。


 エロい。その日は二冊目(おっぱいの描き方)をじっくり読み、一夜を過ごした。


 さて、イラストレーター志望の買い物などはこの辺にしておき、翌日、宗介は高校に通う電車の中で計画を立てた。PDCAサイクルを回すのだ。スマホでネットを閲覧しつつ、今後の戦略を練る。


 一、実行。これは毎日1時間ずつ練習すればよい。お手本は商業漫画だ。


 一、評価。これがいささか難しい。なぜなら周りに宗介がイラストレーター志望であることを打ち明けたことがない。よって絵を見ても笑われるか無関心を装われるかのどちらかだ。


 自分で自分を評価することは解せぬ。けれども宗介の描いた女の子を身近な他人に見せるのは恥ずかしい。前日のように宗介はおっぱいやら絶対領域やらを自由気ままに描く予定であり、そんな萌え絵を他人に評価してもらうのは自分の恥部を惜しげもなく見せるのと同等。よって評価は匿名の者にしてもらわなければならぬ。


 一、改善は後回し。まず評価の部分を実現せねばPDCAサイクルは回らなかった。


「誰にイラストを見せようか?」


 電車の中で立ちながら宗介は独り言を吐く。車内では本を読むもの、ゲームをするもの、友達と談笑するものなど様々な老若男女がいる。しかし、宗介のように萌え絵で将来を憂慮しているものは一人もおらず、宗介のように萌え絵で生計を立てようなどと考える馬鹿は全国を探しても千人もいないだろうと予想できた。少なくともその千人は専門学校や美術大学に行くという進路をとる。宗介のように大学進学せず独学でイラストレーターを目指そうなどというものは本物の天才か馬鹿のどちらかであり宗介は馬鹿に分類された。


 野球部で甲子園を目指せなくなった腹いせにケータイ小説を読み、イラストを描くようになっただけの高校生。なるほど、イラストは趣味にカテゴリーされるだろう。


 もう一度ため息をつく。スマホのページを適当にスライド。すると、あるページに目を奪われる。ユーキャンだった。ユーキャンのデジタルイラスト講座。


「なになに? 五か月間の通信講座で添削やって質問に答えます? ――添削!?」


 宗介は閃く。評価の部分は身近な他人でなくてもいい。本物のプロの講師でも全然構わない。むしろそのほうがやる気が出る。添削で評価され、それを元に改善する。なるほど、ユーキャンを使えばPDCAサイクルを回せそうな気がしてきた。


 宗介はデジタルイラスト講座を受講することに決めた。一括払いで四万円とちょっと。高校生に手痛い出費だがバイトすれば問題ない。


「五か月間受講して上手になってピクシブにアップしよう」


 イラストレーターになるには何年、何十年かかるか分からない。しかし、ピクシブにアップするのは誰でもできる。宗介はまずはピクシブにアップできるクオリティーの作品を描くため、ユーキャンに申し込むことにした。

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