極右・極左政党とは政治家や思想集団などではなく、タダの「インフレのあだ花」に過ぎない


Gガイド.テレビ王国|時論公論 スペイン総選挙 右傾化する欧州

【解説】二村伸

https://www.tvkingdom.jp/schedule/101024202307260410.action



2023年7月26日の朝っぱらに放送された、このくだらない放送内容は、スペインで移民流入阻止を声高に叫び、LGBTQなどの価値観の押し付けに対するプロテストなど「極右的」な政治勢力「VOX」を含む右派勢力が、2023年7月のスペインの総選挙で勝った(=そして右派勢力が勝つことは「悪いこと」だ)+EUではここ数年の選挙で右派が躍進し、イタリアではメローニ政権が、フィンランドやスウェーデンでは左派政権与党が敗北し、欧州が右傾化しつつある(=悪いことだ)…という程度の内容です。


非常に中身の薄い、しかも「偏った」内容で、最悪なことに解釈論が「間違えている」という内容でした。確かにNHKは左翼リベラルの集まりなので、このような「テキトーな」話になったのだろうと思われます。しかし公共放送は我々のカネを強制徴収して作ったのであり、よって間違えた内容に対しては納得してはならないし(納得したら、それはファシズムに屈したこと)、カネを返すべきなのは当然のことです。カネを負担させられている以上、民放のように「見なければよい」というわけには行かず、黙って見過ごす寛容さなどあってはならないばかりか、不正確な分析や解釈を許容することは「知性への逆徒」を認める文明への犯罪です。よってワイが正しい解釈をしようと思います…m(_ _)m



  ※     ※     ※

  


このVOXという「極右」勢力ですが、直前の5月の地方選挙では確かにスペインで躍進はしていました。そのため現在の左翼政権が総選挙に打って出た結果はこちらになります…m(_ _)m


スペイン総選挙、保守派野党が勝利も過半数届かず 与党も祝賀ムード

https://www.bbc.com/japanese/66288423


右・左で分ければ右派勢力のほうが数は多いものの単独過半数を占める勢力がなく(最大政党は国民党)しかも右派勢力は政策での一致点が少ないために、仮に連立政権与党を組んでも政局は混乱するだろうという程度の現状分析です。これではスペイン保守勢力は、とても勝ったとは言えない状況です。そして件のVOXに至っては2019年の52議席から実に20議席近くも数を減らす「大惨敗」の結果で終わりました(33議席になる予定)。ならば…


「極右は負けた」←これが正解


よって右傾化など「全然してない」のですが(だから左派系与党も祝賀ムード)、何故か「右傾化してる」と騒いでいるという「ミスリード」=「刷り込み(洗脳)」を公共放送で行っている困ったもんだね…という事でした。



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我々は以前、北欧のフィンランド・スウェーデンの各左派与党が敗北したことについて、「右傾化・左傾化という政治問題ではなく物価高インフレによる生活苦から政権与党が敗北した」という話を主に両国のインフレ率から考察しました。そして「悪性インフレ(=物価高)は常に政権与党の敵」という話をし、そのため仮にフィンランド・スウェーデン両国において保守勢力(極右をふくむ)が政権与党になったとしても、インフレ撲滅と景気回復+失業率改善がなければ「今度は次の選挙で右派が負ける。必ず負ける!」と予言しています。


インフレこそが選挙行動の基本です。

賃金上昇以上の物価高が続けば与党が負けます


そこで今回のスペイン総選挙を見てみます。インフレで考えると実にわかりやすいのです。

極右勢力VOXが勝ったのは2019年。この年に何が起こったか? …ですが「なぜ〜ヤマト」の中で述べたように、その前年からトランプ政権によって本格的な対中国貿易紛争が始まりました。一向に改善しない対中赤字に業を煮やしたトランプ大統領が矢継ぎ早に対中国貿易制裁を繰り出してきました。この結果、世界経済は大混乱し、米国を除くほぼ全ての国で急激な景気悪化が見られるようになったのです。当然、矢面に立たされた中国も失速し、この結果として中国の最大の貿易相手国であったEUの景気も失速しました。大体、概算でEU全域でおよそ1%程度の減少です。


ここでスペインを見てみると、2017年(まだ米中貿易紛争が始まってない)の経済成長率を見ると3%ほど。これが2018年には2.3%、2019年には2.0%に落ち込んでいます(世界銀行データ)。日本よりは高いのですが、成長率は2/3に落ち込んだということです。ではこの時のインフレ率はどうでしょう? ネットで簡単に検索できるありがたいページ「世界経済のネタ帳」さんから拾ってみると、2017年は2.04%ほどだったものが2018年には1.74%、2019年には0.78%へと劇的に「デフレ化」しているのです。スペインもまた景気失速です。


ここで重要な指標である失業率も見てみます。2017年が17.23%、18年が15.26%、19年が14.11%と他の国と比べても高止まりしているのですが、実はスペインはリーマンショック以後、継続的に景気が悪化し続けていて特に欧州通貨危機で国家破綻ギリギリのピンチに立たされるほどだったため、この数年前まではごく普通に失業率が25%にも及んでいました。なので失業率に関しては改善されているとさえ言えるかも知れませんが、これは2018年ごろから始まった景気失速をうけて自発的失業者(就職をある意味諦めた)という層が一定数いることと、ある程度は移民などが仕事を奪ってしまったということなどもあったように思います。実際に移民のせいで失業率が悪化した…というのは、何処の国でも「神話」に過ぎず、移民の仕事は本国人があまりやりたがらない仕事であることも多いために「棲み分け」ができている場合が多いのですが、イメージ的には「景気悪化と失業は移民のせい」という間違えた先入観をもつ人は多く、そもそもスペインは多額の政府赤字があり、このため年がら年中国家破綻すると心配されている「欧州の劣等生」でした。このため失業率の改善があったとしても日本と同じように多くの人たちが低賃金で「仕事だけはかろうじてありつける」という苦しいデフレ国家だったのです。スペイン人の不満は貯まる一方でした。


このため2019年のスペインは、長年スペインに緊縮財政=福祉カットや景気悪化を受容しても政府の借金を減らせ…という圧力をかけ続けたEUに対する疑念と、延々と続いた不景気・高失業率という不満が高まっていたときの米中貿易問題に端を発する世界景気の悪化をうけた「かなり経済情勢の悪い」中での選挙であり、このため現状に不満を抱えていた一定層がVOXに流れた…と考えるべきと思われます。「極右」に流れた理由として、スペインをイジメてきたEUが積極的に推進するLGBTQ多様性や移民・難民への過剰な優遇策に対する不満があったから、と考えるのが妥当ではないでしょうか? スペインには厳しく、移民や同性愛者とかには優しいEUに不満が溜まっていたという解釈です。これならVOXが勝つ理由が(結果論として)判るわけで、「EUのせいで皆の生活が苦しいから」極右VOXは勝てたのです。


しかし今回の2023年は状況が違います。確かに今年も激しいインフレと景気失速に見舞われているEUなのですが、スペインは新コロからの打撃を受けた後、景気が回復しているのです。確かに燃料代含めて全ての物価が急激に上昇していて生活苦はひどいものがあるのですが、2022年には8%、23年も4-5%以上の成長が見込め、これは新コロ前の5倍から8倍もの成長率です。つまりインフレヘッジ行動により国内景気が改善しているということです。そのため失業率も改善し12.63%と見込まれていて(←IMFによる2023年4月の推計)、これは近年になかった劇的な改善と言えます。なにしろ10年前は25%だったのですから。


しかもスペインの好景気は、日本と似たような「周回遅れの景気回復」と言え、他のEU先進諸国が積極的な財政政策で景気を下支えしていた去年・一昨年に比較して、そんな余裕もなく取り残されていたものの世界的なインフレに引っ張られるように物価高が持続的な景気上昇をもたらし、その結果の失業率改善とさらなる好景気という好サイクルに入ったため「物価高で苦しいけど、景気自体は回復しつつある」という内需拡大型の成長軌道にのっかりつつあるようです。なのでスペインも国内産業(サービス業)や観光業という内需の強さが出てきており、実際にIMF予測によれば来年の予想成長率は2-3%と極めて高い数字が予想されています。これは半年前の予想から1%近くも上方修正された数字で、ドイツの2024年成長率予想が実に「マイナス0.3%」という爆死に比較して「圧勝」と言えるバラ色の予想です。


つまりこのジリジリと湧き上がるような景気回復感があるなかでスペインの左翼与党は総選挙に打って出た…ということでした。そのため、いまだ高いインフレ率によって政権与党は敗北はするものの景気回復期でもあるためにそれなりに踏みとどまることに成功し、逆に「生活苦」という経済不況を追い風に勢いを伸ばしてきたVOXは劇的に失速した…と考えればよいというだけのことでした。


右派VOXが勝ったのは、スペインに緊縮財政を長年押し付けて来た憎きEU(ドイツとか)が左派リベラルだったことへの反発からに過ぎません。もし現在のEUが白人至上主義的・保守強行勢力がメインストリームの右派勢力だったらスペインでは極左やバスク・カタルーニャ分離主義極左が勢いを伸ばしていた可能性が高いと思われます。要するに反EUと不景気で伸びてきたのが極右・極左であり、景気が回復基調にあるために(少なくとも極右VOXは)勢力が後退した…ということでした。「反EU」ということで、特にスペインは恨み骨髄だったことでしょう…


よって結論から言えることは、極右・極左は政治勢力ではなく「景気悪化の徒花あだばな」に過ぎないという事です。振り返ってみればナチスドイツがそうで、1933年にナチスが政権与党になる直前期は1929年10月から始まった世界大恐慌の悪影響がモロに出ていた時期であり、ナチスもまた不景気によって政権を取ることの出来た幸運な「インフレブースト」勢力に過ぎなかったということです。ドイツ人が人種差別的だったわけではなく、単に不景気ブーストにナチスが乗っかっただけ…ということです。


景気とは有権者の可処分所得の増加分と失業率の問題であり、これは同時にインフレ率の問題です。皆の所得を増やしつつ、失業率は極力下げ、同時に物価高もほどほどに抑え込んで豊かな生活を送らせれば、移民や難民に対してももっと寛大でいられたでしょうということです。人間は人種に関係なく、財布が大きくなれば心も大きく寛容になれるものです。


実際、現在の欧州は右傾化など「していない」のです。単にインフレによる混乱期にあり、このために極右・極左という異常な勢力が伸張しやすい環境にあるというだけのことであり、庶民の景気が悪いときには常に政権与党に逆風になるだけです。そしていまのEUは「自国内の有権者たちの生活苦には耳を傾けない」一方で「移民難民に寛容」「LGBTQには寛大」という左翼リベラル色が強いために、これに反発しているだけ=極右が伸びるというだけの事に過ぎないのです。少なくともEUの庶民階層はそう考えているために、現在の生活苦を招いている(左翼的)政権与党に反対する勢力の伸張に手を貸している…という「一時的な反発」に過ぎないのです。よって右派勢力が勝ったわけでは「ありません」。反対側に投票しただけ…という事で、経済状況が落ち着いてくれば、より穏当な右派・左派勢力が再び勢力を回復します。これも過去の世界史が物語る真実です。


インフレこそが政治を決定するメインフレームであるということを世界中の政治勢力は知るべきでしょうね。あと、NHKもね…(呆れ

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