国家・政府の存亡は景気が決定し、景気はインフレが決定する ←なぜ高度福祉国家で左派政党が敗北したのか?…の理屈について
フィンランド議会選でマリン首相が敗北 保守派が僅差で勝利
https://www.bbc.com/japanese/65159941
つい昨日、フィンランドの長年の夢でもあったNATO加盟が実現したということだったのですが、この外交的大勝利も与党・社会民主党には追い風にはならなかったようです。
この与党の敗北の原因ですが「インフレによる生活苦」←これだけです。
何処の国でもそうですが、選挙は(戦時下の一部の状況を除けば)ほぼ全て国内経済で決まります。今回もそうでした。2020年以後、新コロによる経済的大打撃を金融緩和(≒カネのばら撒き)で救済しにかかったため、結果として著しくカネの市場流通量が増え、「新コロバブル」と言えるような経済下支え効果が出ました。要するにカネをばら撒けばインフレが発生し、インフレは産業国家においては経済成長(好景気)をもたらす。なので新コロバブルが発生した…程度でOKと思われます。
この期間、推定で全世界で1200-1500兆円もバラ撒いたらしく、このため物凄い通過供給量の急増=激しいインフレとなり、このインフレで我々は苦しんでいるということです。インフレのタネを2020年に撒き、現在、この悪の華の収穫をさせられている「地獄の秋」という時期なのです(T_T)
新コロでの経済救済の結果、物価高という当然の結果になりました。これは「貨幣の中立説」からも正しいと思われます。貨幣の中立説とは「カネばら撒けば景気がよくなるとか、いやいや逆に意味ないよ…とかいろんなヤツがいろんな事言ってて上手く行ったり行かなかったりだけど、たった一つのことだけは判っているよ。カネをバラ撒いたら後で必ず物価高になるし、撒かなければデフレになるよ。(= ゚ω ゚)/」という内容です。貨幣の働きは長期的には物価にのみ影響し、その他の事象〜景気や失業率などの政策的課題に対しては「中立=本質的には良くも悪くも作用しない」という事です。
なので現在、酷い物価高なのです…m(_ _)m
そしてインフレは全ての与党にとって逆風です。この単純な経験則があるため、マリンちゃんは死亡しました。確かにもともとコロナの時に酔っ払って裸踊りしたりなど品性に問題があることが疑問視されてきた人物ではあったのですが、今回の選挙では特に関係ありません。というのもフィンランドはここ1年ほど、激しいインフレに悩まされていたからです。TradingEconomicsの情報によれば、ここ1年ほどの間のフィンランドのインフレ率は実に8%超えでした。
https://jp.tradingeconomics.com/finland/inflation-cpi ←参考資料
少し詳しく見てみると、2022年4月に5.7%(←YoY)。これが翌月5月からは一気に7%に上昇。その後、高止まりのまま冬には燃料代の高騰を受けて9%台にまで乗せています。今年になってからもほぼ同水準であり、この生活苦はかなり庶民にとって厳しいものになったと思われます。このインフレによる生活苦が政権崩壊の理由の全てです。
よく「マリン首相はリベラルで…」とか、保守党野党が政権奪還したために「移民問題に疲弊した国民の声ガー…」みたいな言説が聞かれるのですが、そういった政治的な色彩は特に関係ありません。単にインフレが原因だったのです。野党も大勝利ではなく僅差での勝利だったことから見ても、野党の主張が幅広く支持されたと考えるよりも、現政権の経済政策〜一般人の生活苦に対する支援対策の不足・無能に対する反感…と捉えたほうがよいと思われます。
これは予想できることでした。というのも全く同じ展開だった先例となる国があるからです。スウェーデンです…m(_ _)m
スウェーデン議会、中道右派の穏健党党首の首相就任承認 政権交代に
https://jp.reuters.com/article/sweden-government-idJPKBN2RD08C
2022年9月にスウェーデンで総選挙があり、8年ほど政権与党の座にいた左翼・社会民主労働党(アンデション内閣)が敗北。この後に中道右派政権が成立した…という話です。この選挙では左翼政権が敗北し、移民排斥を訴える右派・民主党が躍進。このため、特に移民による犯罪率増加(スウェーデンは刑務所にいる人間の4割が移民)などを背景にした右傾化によるもの…とマスコミで言われていたのですが、そういった政治的な出来事は実は特に関係ありません。単にインフレによる生活苦が与党敗北の主因です。確認のため、スウェーデンのインフレ率を見てみます。
https://jp.tradingeconomics.com/sweden/inflation-cpi ←TradingEconomics参考資料。
これは酷い…ಠ_ಠ;
2022年4月の段階で6.4%だったインフレ率が翌月から7.3%。選挙直前の8月には10%を超えています。これではスウェーデン人の生活苦はひどいものがあったでしょう。政権与党敗北は当然でした。実際、アンデションは移民に肝要だったわけでもなく、事実、就任当初の国会演説の冒頭で「移民は(スウェーデンの社会福祉に)甘えてないで働け!」と吠えたほどであり、スウェーデンは新コロ時には医療現場の崩壊や予算不足などから(特に老人に対して)カネをかけない「放置政策」を採用してノルウェーなどの近隣諸国から…
…とされていた「自称高度福祉国家」です(笑
パヨク涙目+出羽守も死亡という、とても気の毒な展開でしたね(爆死
とはいえ、実際には政治問題はほぼ関係なくインフレの急激な悪化による生活苦が政権崩壊に繋がったと考えるのが正解です。こうしてスウェーデンで起きていた事が今回、フィンランドでも起きたと言うだけであり、外交や右左の政治問題は実際には政権選択選挙の時にはほぼ無関係であることが今回も証明されたと思います。要するに過度なインフレを抑圧しつつ、景気は良くして失業率の低下とか処分所得の再分配後の「庶民の手取りを増やす」事ができれば与党に居続けられる…ということでした。
両国の選挙の結果は、別に政治的な右派・左派の問題ではなかったということです。単なる物価高の問題でした。でもこの問題が一番重要なんですけどね…
※ ※ ※
このことから二つの事が言えます。「2024年の各国の選挙結果」と「高度福祉国家におけるインフレリスク」がそれです。
まずは前者について考えてみます。
・2024年アメリカではトランプ政権が復活し、台湾では与党・民進党が敗北する可能性がある
上述のように「生活苦を伴うほどの激しいインフレでは与党は選挙で敗ける」という経験則から世界各国の政権与党は絶望的に厳しい状況に追い込まれることになるはずです。特に2024年は主要国で選挙目白押しの年になります。たとえば米国大統領選挙ですが「バイデン民主党政権大敗北」の可能性が高くなりました。米国のインフレ率は高いままで、まだ暫くは高いままと想定されているからです。しかも今後、深刻な景気後退さえ予想される異常事態で、この悲惨な状況下でおける選挙では共和党の大統領候補になれればイヌでもネコでも誰でも米国大統領になれるというほどです。ならば共和党で一番支持率の高いトランプが大統領に返り咲く…と考えるのが普通でしょう。外交ではトランプ復活後の世界戦略を今のうちから描いておくことが必要かもしれません。
非常に興味深いのは台湾です。2024年1月に総統選挙が行われるのですが、現在、与野党が拮抗しています。そこで台湾のインフレ率を見てみます。
https://jp.tradingeconomics.com/taiwan/inflation-cpi ←参考資料
すると2022年7月くらいに4%をつけたもののピークアウトし、徐々にインフレ率が下がっています。現在は2.7%を挟んだ動きのようです。インフレを抑え込んでいるという意味では「優秀」なのですが、逆にデフレ化しているとすれば今度は失業率が問題となってきます。景気悪化のためにインフレ率が低下≒失業率増加+不景気ということだからです。そこで今度は失業率を見てみます。
https://jp.tradingeconomics.com/taiwan/unemployment-rate ←参考資料
2022年2Qに3.7%台をピークとして徐々に下降。現在は3.6%くらいにまで下がっています。このデータだけ見るとやはり「優秀」と言えそうです。ということは与党・民進党圧勝〜というのが普通なのですが、しかし台湾の場合、この各種指標をもう一度詳しく検討すべきかと思います。
まずインフレ率ですが、ここ10年くらいは大体1%後半くらいです。驚くべきことに日本とさほど変わらないほど「デフレ化」していたのです。このため単純にインフレ率が低下したから与党優勝〜と考えることはできません。新コロ前のインフレ率と比較すると、現在は2倍も高いからです。この数字は台湾庶民に相当の生活苦をもたらしているのではないかと想像出来ます。「昔に比べて全てのモノの値段が高い」という生活苦を実感してるとしたら、民進党には逆風です。ただし失業率の方は直近7-8年は大体4%中盤だったので、現在はかなり改善されていると考えることは出来ます。良し悪しマチマチです。
もう一つは新コロによる経済的打撃の蓄積の問題です。ここ数年、台湾でも新コロに伴う輸出入の不振や景気悪化・失業の一時的な増加などの累積ダメージがあり、インフレ率・失業率の改善の効果が出てくるまでのタイムラグが存在する事も念頭に置かねばならないと思われます。要するに「今まで苦しかった。ようやく少し出口が見えてきたかも?」という微妙なポジションの可能性があります。このため現在、与野党の支持が拮抗しているのだろうと推察できるのです。よって来年の台湾総統選挙は「世界景気(インフレ)次第」と考えるのがよいと思われます。
そこで現在2023年1Q終了時での将来展望を概観すると、2023年は後半から年末にかけて米国経済の失速から世界的なリセッションが予想されています。これはインフレ時なのに景気は悪化(デフレ)という非常に厳しい状況に陥るのではないかという不気味な予想です。このタイミングでの台湾総統選挙なので、ワイ的には「現野党・国民党優勢になるのではないか?」と判断しています。この後、世界景気が回復してくれれば民進党も十分勝てると思うのですが、予想通り悪化すれば台湾でも政権交代という流れになりそうです。
加えて、このインフレはかなり長く続くと予想され、世界的なピークアウトは2024-25年、正常化は更に1年後と予想されています。この予想は市場における期待インフレ率が2.5%くらいに戻る(現在はこの1.5-2倍)のが大体そのぐらいと考えられているためで、勿論、さらにずれ込むことはあっても早まることは難しいのではないでしょうか? だとするとインフレが収束するのは予想外に時間がかかり、その間は「インフレは政権与党にとって逆風」のままの状態が続くということです。
世界景気は米国与党およびFRBに大きく依存しているので、バイデン政権およびFRBの「インフレの読み違い」は致命的になった可能性さえありますね…( ・ั﹏・ั)
・福祉国家はインフレには勝てないという厳しい現実
さて、インフレが国家(政権与党)に与えるダメージのもう一つのポイントが「現代的な高度産業(福祉)国家におけるインフレのリスク」についてです。スウェーデンにしろフィンランドにしろ高度福祉国家には一つの傾向があります。「インフレ率=成長率が低い国」という傾向です。高度な福祉政策を採用したため重税国家となり、庶民の勤労所得の結構な部分が税金で持っていかれて手取りが低いまま…という傾向です。
インフレ率が低い理由ですが、ワイらはこの理由がよく判っています。「市場金利が低すぎるから」です。しかし市場金利が高いと国債の金利も高いということになり、それは政府の利払い負担や国家破綻に直結するリスクとなります。よって「国家破綻を防止するために低金利政策を採用している。この煽りをうけてインフレ率≒経済成長率も低いまま」と考えるのが適切と思われます。現在の「国債バブル」時代における普遍的な問題の一つで、国民に耐乏生活を強いることで国家破綻を阻止している…程度のことです。
とはいえ、ここではこれ以上はツッコまないとし(なぜなら彼らの政策なのであり、我々が突っ込んでも何も変わらない)、重税の結果として個人の可処分所得(税金取られた後の実際の手取り)が低く消費余力が減り、この事が国内市場を停滞させる…というデフレ化をもたらし、このデフレ化のためにさらに低成長→ますます国民の所得も低成長になった…という結果にだけ着目します。
低成長のために庶民の所得が伸びず、個人の資産余力も少なくなり、このために個人の福祉などに関しては国の関与がますます必要になる…という悪循環が始まったということです。こうなると個人福祉に多額の政府補助が必要となり、このためにさらに重税が課せられ国民一人ひとりの現金預貯金(この場合、個人の貯蓄額)が思うように伸びなくなります。困窮化です。国民はカネがないので(稼げないので)政府の福祉に一層頼らざるを得なくなり、その事でますます国民福祉に多額の政府支出が必要になり増税+重税化。そして国民は手取り(再分配後の可処分所得)がますます少なくなり生活余力もますます奪われて貧困化が進み、更に政府の福祉政策に頼らざるを得なくなる…のスパイラル問題で、この負の連鎖のために重税と国民所得の劣化を招いたということです。
現在の日本でも「異次元の子育て支援」が問題になってますが、低成長のために個人の勤労所得が伸びず、教育などにコストのかかる子供を生むのを諦める人たちが増えたために政府が支援に乗り出した…と考えてみると、我々でも納得できますね。北欧の高度福祉国家の傾向としては、福祉政策が充実し国がある程度面倒を見てくれるために仮に所得が低くても「贅沢しなければ、なんとか生きていける」という環境でした。
ここに現在の高インフレが襲いかかったということです。
インフレとは「物価高」です。ここで所得との兼ね合いが出てきます。不動産やら高級贅沢品の価格が上がるばかりではなく、日々の生活に必要なもの…特に食料品や燃料代なども高騰し始めると、所得の低い人たちは(高所得者に比べて)より生活苦が深刻になります。10倍金持ちの人たちは貧乏人の10倍食べるわけではないからです(その分は投資や高額物品購入などに回る)。コスト上昇のために、同じコストに対して負担できる余力が貧乏人は(金持ちよりも)より少ないからであり、このためインフレは常に貧乏人に対してより大きな負担を強いることになります。
スウェーデンやフィンランドは国民の平均所得が比較的低く、スウェーデンの勤労世帯の平均所得が400-500万円くらい(2019年次で大体月平均35万前後)、フィンランドは500万円くらいですが、この後で4割以上を税金で持っていかれる計算です(フィンランドの場合、この所得レベルだと毎月11万円くらい税金で持っていかれる)。このため再分配後の可処分所得は意外と少なく実際には300万円の後半くらいと考えるのが妥当と思われ、これは日本のいわゆる「300万円の壁」に近い状況です。つまり日本と同じ程度の生活水準の時に、日本の二倍から三倍のインフレが襲いかかったというのですから、そりゃ「生活が苦しい…(T_T)」になったと思われます。
このことから、高度福祉国家は低成長なら成立する概念であり、低成長でなくなったら途端に破綻する制度だと考えたほうが「身のため」…特に政権与党にとっては、ということです。インフレには弱い政治体制だったのです。
よって「税金高いけど、福祉が行き届いている国が平等国家で理想郷」という考え方に疑問が生じます。高度福祉国家ではインフレには勝てないということです。これは一つの結論かもしれません。つまり経済成長しないと国家も国民も基礎体力(国力)を亡くしてしまうという事実と、インフレ成長によって貧富の格差が生じたとしても、この余力を増税と所得の再分配という形で解消することが真の福祉国家への道であり、貧富の格差を亡くしてしまうことが幸せにつながるわけではなさそうだ…という冷酷な現実が見えてきたということでした。
結局、インフレこそがこの世界の王だったということかもしれませんね…(๑¯ω¯๑)
人類の浅知恵を嘲笑う、インフレという悪魔の奇声が聞こえてくるようですね…
※ ※ ※
こちらのノベプラの方ではよりグラフィカルに表示できるために各種図表をインサートしたバージョンを提出しています。
https://novelup.plus/story/859734330/948979588
よかったらこちらもご参照ください…m(_ _)m
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