プーさんにみる「独裁者にあるべき資質」について

寅年は「寅、千里を走る」と言われる大荒れの年。振り返ればウクライナ紛争一色の年でした。困ったものです。


ロシアに関して言えば我々の予想どおり「22年後半には攻勢は力尽き、ごく限られた地域での激烈だが限定的な戦闘状態に移行せざるを得ないorヘタすれば潰滅して果てている」の結果になっており、カネで考えればこれ以外の結論は出てこなかったので「順当」ということでした。特にサプライズもなく、また戦闘が膠着状態なのは、西側がロシア抹殺のための徹底した軍事援助をしていないからだけであり、単に核戦争になるのが怖いからウクライナに全面的な戦争協力していないだけです。


そのため逆に無駄にウクライナの犠牲を増やし、我々も苦しいインフレに悩まされてるわけで「中途半端な全面戦争はするな」という事で戦後、我々のこのやり方に対して後世の人間が激しく非難することになるのでしょう。確かにその批判は受けねばならないでしょう。


プーチン政権を抹殺した方が誰にとってもよかったのですから…(๑¯ω¯๑)


しかし奇妙な問題もあります。「なぜロシアは中途半端な戦争を続けているのか?」です。これは実はカネでは考えられない「奇妙な思考」です。


国家総力戦に移行した段階でGDPの劣る国が優る国に勝った試しはなく、現在のウクライナ紛争はプーチンが諱みじくもいうように「西側(がロシアを抹殺しようとしてウクライナを焚き付けて)の代理戦争」であり、ロシアvs西側の国家総力戦という正しい構図を見抜いています。そしてロシアvs西側G7のGDP比は1:30以上であり、月の裏の独裁公国のような「ミノフスキー粒子」「モビルスーツ」「ガタガタ騒ぐならコロニーでも落としたろか?」的な技術的・革新的優位性+地の利でもない限り一年とは戦えないはずでした。

よってすでにロシア軍はボロボロで推定死者数約2万人、損失人員だけでも10万人に手が届く程になっています。人口も日本とほぼ同程度しかなく、新コロで既に120万人以上死んでいたロシアにとってはなかなか痛い人的損耗だったことでしょう。


どうやら当初の計画では3日で首都キエフ陥落。一週間でウクライナの組織的抵抗を封じ、一ヶ月で領土完全併合…という「オマエ、侵略戦争もいいとこだろ(西側発狂)」的なプランをロシアは描いていたようですが、あっさり頓挫。この段階で既に政治的軍事的なオプションはなくなったため、唯一の政策は国家総動員によって全資源の戦争投入→戦争の早期勝利を目指す以外には「ありません」でした。


ロシアが勝ったところで西側が折れないだろ…( •̀ㅁ•́;)??


…ですが、ロシアは交渉にしろ恫喝にしろ「勝たねば先はありません」。プー公も当初はそう考えていたはずです。ウクライナを完全併合して数十年もすればドイツ・フランス・イタリアは資源と膠着した緊張状態+軍事的財政的負担からすり寄ってくる。米英アングロサクソンと切り離して欧州とだけは手を組み、1世記もすれば既成事実化できる…とでも判断していたのでしょう。実際、それしかなかったのです。


このため速やかに国家の全資源の侵略戦争への最適化を図らねばならず、しかもロシアには莫大な天然資源がありました。この資源の活用し産業復興と国防力増強を図らねば敗けるのは自明なんですが、そうしていません。この非論理的な行動ですが、実は独裁職の強い国家の場合、結構あります。WW2時のドイツがそうで、ナチスドイツが国家総力戦に移行したのは実にスターリングラード敗北後です。それまでは「日常の延長上で戦争していた」ということでした。


これは独裁国家の場合、政府への信頼が揺らぐと一気に革命騒ぎになる「柔軟性を欠いた政治政体」であることが考えられ、国内政治の不安定化を避けたいという目論みと、戦時体制への移行にともない日常物品不足から深刻なインフレが発生する懸念があるからと思われます。インフレ≒際限のない物価高は闇市や貧富の格差を増大させるだけでなく、これまた生活苦から革命騒ぎへと展開するリスクが生じます。


…と、ここまではよく言われることなのですが、この他に「独裁者の奇妙なリベラル思考」というのがあるかと思われます。

要するに「やりたくない(らしい)」という不可解で非合理的な思考です。


開戦後のロシアを見てみると、外交において極力「波風を立てない」方向を堅持し続けています。噛み付いてくるのはウクライナ紛争に関わることか、西側による経済外交圧力に対抗する時だけです。日本などに対してもそうで、サハリンのエネルギー資源権益に関しては「中国を優遇したら良い」のに何故か日本にも門戸をひらいていますし、知床での遊覧船事故による犠牲者の遺体返還にも応じているようです(もっとも所持品が揃っていないとか、勝手に遺伝子検査をしたのではないか…的な話も聞こえてきますが、全て憶測なので此処では論議しません)。似たような外交は欧州に対しても行っていて、これはガスパイプラインを爆破した(と思われている)ロシアによる「和戦両様」とも言われていますが、そもそも「なんで今さら無駄な和を乞うのか?」という疑問に答えるものではありません。


自分で嵐を呼んでおいて、それでも波風は極力立てたくないというのはよく判らないやり方ですが、ヒトラーさんも実はそんな感じでした。ポーランド戦の後でフランスと英国とも戦争は避けたかったようですし、それが不可能であったためにフランス殲滅の後、まだなお英国は折れてくると信じていたようです。「駄目だったので攻撃…」という、本来、征服者に必要な「当初からの計画的な全面支配圏確立」とは違う泥縄式の戦争拡大です。


独裁国家の指導者がなぜか「結構リベラル色」なのはよく見られることで、ごく普通の日常+ちょっとだけ(大)戦争…という「事案の極小化」を図ることは自己正当化と国民心理の不安定化防止、あわせて経済体制≒国家経済の正常化のためと思われますが、多分に無意味な思考です。非日常は「日常ではない」のですから、平和な日常のフリをするのは詐欺ではなく「政治的な失敗」です。


プーチン政権の場合、ヒトラーさんと違って核兵器を大量に保有しているので、この兵器の「有効活用」でどうにか出来るはずでした。多数の自国民の死者が出ても、欧米および世界の多くが死滅させられるのならば、無人の荒野の支配者になれなくもないはずです。放射能まみれの荒野ですが…。しかし今の所、その決断も出来ていません。


こんな中途半端な判断で、圧倒的に劣弱なロシアが全面戦争で勝てるはずはない…と誰かが言ってやる必要があるでしょうね。無理過ぎです。確かに戦争は「外交の武力的政策」に過ぎず、外交が戦争より優先されるべきですが、現代世界では戦争が優先されることは非常に稀でウクライナ紛争においては優先されることはありません。なら、中途半端な戦争を続ける場合、「長期戦に耐えられる国力の構築が必要」なのですが、その経済政策を採用しているフシが全くありません。


大日本帝国は1931年からの財政ファイナンスによって1940年時には既にドイツとほぼ同じくらいの経済力を持つほどに急激に国力を増強していました。フランスやイタリアより遥かに強大な国家でした。この国力があって四年近く、四倍の国力を持つ米国と戦えたのであり、敗因は帝国海軍の無能により資源確保のための通商戦が破綻したからでした。「燃料切れ」という事です。ロシアは逆に燃料は無尽蔵にあるにもかかわらず力尽きようとしています。これが「国力=国家の産業力」ということでした。

ロシアは長年の緊縮財政などとっととやめて、赤字国債を立てまくって国家の産業を育てていればいま現在、国内の資源をフル活用して長期持久戦に備えることが出来たのです。緊縮財政により産業が育たなかったことの失敗と言えます。しかし…


借金だらけでは戦争できないだろ…( •̀ㅁ•́;)??


…と言われそうですが、そうでもありません。ドイツは1938年次には既に財政破綻していましたが翌年から元気に戦車でヨーロッパ中走り回ってました。日本は対米戦争を始めてから一気に債権を増やしまくったために財政状況が悪化しています。実際、破綻したのは政府が消滅したことに依る国内デフォルトでした。現在のトルコは激しいインフレ政策によりトルコリラが今世紀に入って1/1300以上暴落しましたが、輸出力は強化され現在では中東随一の産業国家です(生活苦は凄まじいものがありますが…)。

これらの国は結果として(擬似的な)財政ファイナンスの結果として国力を増強していたわけであり、プーチン政権はその効用を最期まで理解できずに廃滅する可能性が出てきました。


なにより、「国民資産がある限りは、政府は借金しまくれる」わけであり、だったら財政ファイナンスで借金増やしてもその数倍の国力=国民資産を作っておけば戦時にそのカネぶったくって戦争続けられる…というだけの話です。戦前の日本のように、です。まあ、国民を「豚の貯金箱」に変える魔法みたいなイヤな手段ではあるのですが…(爆



こう考えると独裁者には二つの奇妙な側面があるのではないかと言うことを念頭に置いたほうがいいのではないでしょうか?

「戦争英雄になりたくても、戦争し続けたいわけではない」という、国家の偉大な中興の祖になりたいだけの「迷惑だが、国民に対しては慈悲深い愛国者」としての側面と「経済音痴のバカ」という無能さの二つの顔です。プー公はこの阿呆の系列の一人に過ぎないのかもしれません。ヒトラーさんと同じタイプです。

これに比べて戦国時代の日本の大名などは遥かに頭がよく、戦さと両国経営とを一つの「経済」として捉え、常にカネのことばかり考えていたフシが伺えます。徳川家康さんのようなドケチだがカネ計算は超有能な、まさに生っ粋の名古屋人基質が後の270年の安定した政治体制の確立に大きく貢献したように思われます。


リベラルっぽい、変な愛国心や理想なんかで頭を一杯にするよりもカネ計算を心がけよ


これが政治家…特に独裁者に必要とされる資質なのではないでしょうか?

理想主義者というのは、要するに電卓さえ叩けない無能…そう言いたいわけです。どうせ独裁者になるのなら、国民や支持者がお金持ちになって幸せになれるように取り計らうべきなんですけどね? 戦争ごっこは子供のうちに終わらせといてほしいものです。


合理的とは「カネ」の話。カネの話は苦労話。しかし大人なら逃げちゃ駄目な話なんですよ…。苦しくてイヤな話ばかりですけどね。

てか、どこかの国のように、政治家が法学部や政治学科あがりの奴らばかりの国では、国家は決して豊かにはなれないと思うんですが…(謎

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