デモクラシーの理想と現実〜中国における反ゼロコロ騒動に関して思うこと…(小並感

『デモクラシーの理想と現実』はハルフォード・マッキンダーの古典的名著でワイも学生の時に概略本など含めてを読んでいたものでした(ミリオタ系の雑誌で頻繁に取り上げられていたので)。地政学の概念を切り開いたと言われています。


WW1後に英国で書かれた書籍で、それまでの「海を制する海洋国家が世界帝国を築く」という概念から大陸を支配する大規模陸上国家が世界を支配するというパラダイムシフトを主眼とし、世界をアフリカ=ユーラシア大陸(世界島)と南北アメリカ大陸の二つにワケ、それ以外を基本的に「島」とし、英国や日本、オーストラリアのような「島」国家=海洋国家よりも、世界島をどれほど支配するかで世界支配強国が決まる…程度の内容です。


特に東ヨーロッパを支配することの出来た内陸支配国家(ドイツとソ連)が決定的に重要になるとし、この東ヨーロッパ地域を中心にランドパワーを発揮して「(世界島を支配することのできる国とその属国の領域を)ハートランド」と定義。このハートランドを押さえる国こそが次の世界帝国国家…というぐらいの意味合いかと思います。


非常に優れた慧眼で、その後のWW2の展開が言ったとおりになったこともあって一時期は有名になりましたが同時に、その後の時代の変化に対応できなかったとされ、特に米国の支配と制空権に関する認識の甘さが言われていますが、やはり影響力は大きいものがありました。


現代ではこの概念を受け継いだ「リムランド」論というのもあり、ヨーロッパ全域〜中東〜インド〜東南アジア〜中国沿海部の巨大な三日月弧の領域を呼び、この地域が歴史上極めて重要で肥沃な地帯で、この領域を押えた国が世界島を支配する…程度の内容かと思います。


中国の「一帯一路」という概念がまんまこれに当てはまります。中国共産党指導部がハルフォードの書籍やリムランド論をどれほど理解していたのかは不明です。一帯一路構想はもともと中国共産党の結党時には微塵も出てこなかった概念で、習近平政権成立後に出てきたことから習政権の目玉政策ではあるのでしょう。しかし少なくとも習近平政権からハルフォードの話などが出てこない事を考えると、リムランド論と一帯一路抗争は偶然の一致と見るべきかもしれません…(๑¯ω¯๑)


ワイ思うに、中国の一帯一路構想というのは、国内バブルで借金に困った「やらかし中国」が同じ事を海外でやってみた結果、借金の抵当や食い散らかした投資案件の結果を泥縄式にまとめた「後から出てきた概念」だと考えています。


「なぜ〜ヤマト」の本編でも述べたように中国経済というのは、主に地方政府が借金を建てて公共事業+投資で膨れ上がってきた「債権バブル国家」に過ぎません。んで、この金利が高いために次々と企業が倒産したりしてるわけですが、このやり方の最大の問題は「規模を大きくする以外に借金から逃れる方法がない」という無限膨張が必要で、このために投資対象を内陸アジアだけでなく東南アジアや中東・アフリカ、はては中欧などにまで広げていったと考えたほうがよいと思うのです。

その結果として経済領域は広がり、またスリランカみたいに本当に破綻してハンバントダ湾の租借地を管理する必要に迫られた…という訳で、この領域の安定と中共による支配権および投資資本の回収を目的とした官民一体の経済領域を一帯一路とみなすようになったのだろうと思うのです。


軍事的な面もあるでしょうが、まず先にカネの話があったという事です。実際、このリムランド領域は中国の海軍力〜特に補給平坦を考えると到底維持管理できる領域ではなく、しかも日本・アメリカおよび豪州に加え、インドまで敵に回して一帯一路シーレーンを維持できるとは考えにくいのです。よって軍事的なスローガンにはなっても海洋支配は現実的には無理でしょう。


その事が判ってるようで鉄道事業で「大陸島」を中国と直接つなぐという事にも腐心しているようです。たとえば東南アジアには鉄道事業の新規参入に多額の投資を行い、同時に大陸鉄道で欧州とも繋がっているようです。これはこれで利口なやり方で、しかも鉄道は陸上大量輸送の基本であるのは今でも変わりません。よって「正しい」国家戦略ですが、杜撰で腐敗だらけの中国鉄道公社は既に120兆円以上の有利子負債を抱え、しかもこれは帳簿上の数字に過ぎず、この他にどのくらいの簿外債務があり、どのくらいの有利子負債を抱えているのか全く不明です。


中国の公的鉄道事業は収益性が非常に悪く、しかも鉄道事業は経年での維持管理が莫大にかかるため、今後の前途は大変多難でしょう。出口のない暗いトンネルの中に突っ込んだようなものです。確かに大陸横断輸送網という構想自体はは大変魅力的で素晴らしく、また米国鉄道網のように莫大な富を生み出す可能性はありますが、いまの中共に組織化出来ると考えるのは甘すぎるような気がするんですよね…(๑¯ω¯๑)

よって陸上輸送の要である超大規模鉄道網もいずれ中途半端に力尽き、結果、一帯一路に貢献できるようにも思えません。


リムランド領域は、何より地政学上のリスクが大きい地域で中共が支配するにはあまりに危険性が強い地域でもあります。英国の事例を引くまでもなく植民地経営は予算的に破綻します。最も成功したインド支配でさえWW2後には手放していて、それは英国が戦争に勝ったことから考えても「敗けたから手放したのではない」という事です。英国の撤退はWW2による莫大な戦時債務のため帝国経営の規模縮小が避けられないからであり、よって「債務に屈した」というカネの問題です。中共が多額の官民累積債務を抱え、ゼロコロ政策などによって今後も経済成長が鈍化するようであればドーマーの定理(条件)である「金利 > 成長率が長くつづけばいずれは国家破綻する」わけで、この理屈から逃げることは出来ません…。



中国、コロナ政策巡りスタンス軟化の兆し-広州では住民が警察と衝突

https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2022-11-30/RM5D5HT0G1KW01


ゼロコロ政策が行き詰まり、庶民生活を圧迫してることへの反発から反習近平政権運動まで出てきたという話です。無論、この動きからすぐに中国で革命騒ぎが発生することはないと思われます。しかし中国が混乱し続けることは多額の投資と市場と供給源を中国に負っている我々からしても重大な不安要因です。


新コロやウクライナ紛争のせいもあるのかもしれませんし、ゼロコロ政策のためかもしれませんが中国から有為な統計が出にくくなってるような気がします。激しい経済減衰があるため混乱してるだけかもしれません。米国の政府系シンクタンクの推測によると1Q-3Qまででゼロコロ失策でGDP▲2%ほど凹んだようです。実数だと30-40兆円規模の損失だとか…。この損失額はロシアの今年の全損失額よりも大きいかもしれませんね。ゼロコロ政策は破綻してる可能性があるのですが、容易にやめられそうもないようです。


中国の問題点は医療現場にあり、中国の町医者はほぼ薮医者のようで庶民の信頼が低く、何かあると総合病院に頼るために常に総合病院はキャパシティがない状況です。このため新コロ患者が激増すると一瞬で医療崩壊を招き、それが多数死につながるリスクをはらんでいます。この辺は町医者の水準が高いドイツや日本との決定的な違いで、これでは新コロ政策を緩める「ゆるコロ」政策を採るのは難しいでしょう。またシノバックなどのワクチンはrnaワクチンよりも効力が弱いそうで、反面、どうしたわけか西側のワクチンの輸入は進んでいません。


シノバックの新コロワクチンの出来が悪いとは言え、インフルエンザに対するインフルワクチンと同程度の効果があるとされているのでボカボカ強制的に撃ちまくらせればいいのでは?…とも思うのですが、なぜかそれをやらずに無駄にPCR検査しまくり。このため一年で実にPCR検査だけで40兆円近くもの支出を強要されているようです。しかもPCR検査それ自体が既に利権の巣窟と化し、「やればやるほど業者が儲かる。業者は地元有力者と繋がってる」では…


今の状況が良い方向に変わるとは思えない…(๑¯ω¯๑)


…と結論づけるしかないかもしれません。しかも中国保健担当はじめ複数の研究により、ゆるコロ始めたら中国では100-200万人の死者が出るという推定結果があり、これでは習近平政権がゼロコロに執るのも無理ないかな?…と思います。何処の政府でもこの死者の数字を許容できるわけもなく、出来たとしても独裁国家か、さもなければアメリカくらいしかないでしょう。中国でこの死者数を庶民が是認できるかどうかは不明です。


残念な事に新コロを経験した人類は、かつてから言われていた一つの真実を確認するに至りました。「パンデミックは広まったら最後、どんな手段を使っても多数の死者が出る」…これだけが唯一の真理だったのです。中国もそうなるしかないのです。あとは犠牲者の数をどれだけ減らせるか…それだけが勝負どころであり、習近平政権はどう転んでも前途多難です。


内憂外患…(๑¯ω¯๑)


習近平さんら中国共産党が内々夢見ている「世界最強国」…リムランド支配がかなうかどうか? 外に広がるためには内政の充溢が必要。そうでなければ風船と同じ。中身は空っぽで破裂しやすい。

別に中国に破滅しろと言ってるわけではありません。中国人は賢明な人たちが多いと思いますし、努力家で勤勉で有能とも思うのですが、彼らの政府にもこうした美徳はあると思うのですが、しかし「何か」が決定的に欠けているような気がしてならないんですよね。


困ったものです。

いまは世界支配や国内支配より、他にやるべきことがあるような気がするんですが…


なんかこう、習近平さんのやろうとしていることが酷く時代遅れで、やたら迷惑な話だなぁ…と

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