第八十一話 休息
しばらくして、セイゴさんとリョウゴさん、私はステージから離れて、スズメさんたちの元へ来た。
スズメさんはお腹が減っていたのか、すでにもごもごと何かを食べている。
自由な城主様だ。
「三人ともお疲れ様」
「慣れないことはするもんじゃないとわかりました」
「立っていただけで何をいうか」
「まぁまぁ、この後は自由にしていいからね」
今回は神獣を呼び出せたら、後は何をしてもいいらしい。
はい、疲れました。あんな大人数の前で私は言葉を発さなかったけど、立っているだけで疲労困憊です。
「御手洗様! 素晴らしい勇士でした!」
「私何かやったわけじゃないんだけどね」
レオナさんは目を輝かせながらいうと私に迫った。
そんな目をキラキラ輝かせないでくだい。
本当に何もやってないのに、憧れの人を見るみたいな目が痛い。
私たちの先ほどまでいたメインステージにはいまだに消えない、呼び出した二匹の神獣がいる。
二匹が揃って現れるのは珍しいらしく皆動かなかったが、しばらくすると村の人たちも、各々自由にすごし始めた。
私も屋台で食べものを貰い、近くのベンチで休んでいたセイゴさんの隣に腰掛ける。
「お疲れ様」
「おー、お疲れ」
「本当に疲れたよ。毎回こんなことできてるセイゴさんすごいね」
「慣れだな、慣れ」
「一体いくらするんだって言うくらい綺麗なドレス着せてもらってるし、そもそもこれ歩きにくいんだよね。後汚さないか心配……」
「兄貴が選んだ服だからな。あいつセンスはいいんだ、ツバサと同じで」
「セイゴさんはセンスないの?」
「俺のは大体却下される」
選んでは却下されるセイゴさんの姿が想像できる。
とんでもないものを選んでそうだし。
もしかして、私がいる部屋の服を選んでいたのはセイゴさんかな?
そんな会話をしていた時、メインステージではしばらく大人しくしていた神獣は大きく翼を広げて、やがて空に舞い上がった。
二匹分の風が村全体に伝わる。
フゥはキラキラした白い光の粉を落とし、ツバサさんは黒の粉を落とした。
このキラキラしたものの正体は本人たちでもわからないらしい。
白い粉と黒の粉が混ざり合って、とても綺麗。私はつい息を零した。
「なんだか、ツバサさん嬉しそうだね」
「綾にもわかるか?」
「うん、そう感じる」
「あいつは元々一人だけの存在じゃなかったからな。二匹で一つの存在だ。だから今回は心底嬉しいだろうよ」
「フゥと一緒に入れるのが何よりの喜びなんだね」
「そうだな」
村の全てを確認するかの様に、村をぐるっと飛び回る二匹の黒と白のドラゴンの姿は、とても美しく幻想的に見えた。ツバサさんもフゥも一緒にいられてよかった。
「村の神獣が消されなくて、よかった」
「そうだな、ツバサが消えるなんて考えたくもないな」
どちらか片方しかいなくなってしまったら、この姿ももう二度と見れないものだったのだろう。こんなに仲の良い神獣が消されてしまうなど、あってはならないことだ。
私は本来ならここにいてはいけない存在。
たまたま選ばれて、たまたま特別な力があっただけのただの社会人。
迷惑をかけてしまったことに申し訳ない気持ちである。
私の意思と関係なしに連れてこられたから、そんなこと思っても仕方ないんだけどね。
「……だけど俺は、お前もいなくならなくてよかったと思うぜ」
ふいの言葉に、私の思考回路は一瞬にしてとまった。
何をいきなり言い出すんだとセイゴさんの顔を見たら、ジッとこっちを見つめていた。
力強い目で見られていて、先ほどステージに上がった時のように心臓が音を立て始める。
「そ、そうだよね! 私の命を使ったら、ツバサさんも消えちゃう訳だし!」
「二人いっぺんに消えるのは、勘弁してほしいな。なんだかんだで綾がここにいてくれて、俺は嬉しいから」
誰だこの人。顔がキリッとしまっていて、いつもの生意気なあの態度はどこへやら。
さっきからですけど! セイゴさんじゃ無い人がここにいるんですけど!
「綾、俺は今まで自分には村の人たちと兄貴、ツバサ、フゥ、スズメだけがいてくれたらいいって思ってたんだ。でも、お前が来てからは、お前もその中に加わってほしいと思ったんだ」
「そ、そんな仲に私は入っていいんでしょうか?」
「俺が、入れたいんだよ」
恋愛偏差値が少ない人に何を言いだしているんですか。
私をどうしたいんですかこの人は。
だんだんと顔に熱を感じ始めた時、私の髪を持ち上げると、セイゴさんはキスを落とした。
ななななな、何をしているんだこの人は! 誰だ! 本当に誰なんだ!
心臓がバクバクと五月蝿くなっているのが分る。顔が赤くなっているのがわかる。
この状況! どうすれば良いんですか!
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