第六十五話 王様
セイゴさんは怪我を負ってまで、そんな事を聞きに来たというのか。
村の事は確かに大切なのはわかる。でもなぜ、私のことまで心配して聞きに来たというんだ。
私は、痛々しいその頬に手を伸ばした。
頬が熱をもってとても熱い。早く冷やしてあげたかった。
「こんな怪我をしてまで、その話をしにきたんですか?」
「そうだ。綾がなんでここにきたか、ちゃんと理由を聞く必要がある」
「なんで、私のためなんかで、怪我をするんですか……」
勝手に目に涙が浮かぶ。
私のためにやってくれたっていうのに、それでなんでセイゴさんが怪我をしなきゃいけないのだろう。
「私も連れてくれば良かったじゃないですか。どうして、一人で来たんですか」
「客人として扱ってる綾を連れてこられるわけないだろう。それに、もし一緒に来たとしても俺と同じ目にあってる可能性もあった。綾を、危険な目に合わせるわけにはいかないだろ?」
そう言ってセイゴさんは目を細めた。
私を心配してくれるセイゴさんの目が、昨日の祭りを思い出させた。
なんて無力だろう。私は何もできないと言うことを改めて実感してしまった。
「異世界の者を呼ぶ理由なんて、臨戦状態を解消する以外になにがあるというんだい?」
突然聞こえた低めのその声に、咄嗟に身構えた。
私たちがいる場所から、そんなに遠くない扉。その前に三人、人影が見えた。
一人はフードを深く被っていて顔は分らないが、体格から見て男であろう。
もう一人は、見た目からして優男。金色の長髪で、長めの黒いローブを着ている。
見た目は魔導士そのものだ。でも私が会った魔導士のスズメさんじゃない、見た事もない人だ。
そして、その二人よりも前に出て、こちらに笑顔を向けているふくよかな男。
見た目で分った。この城の王なのだと。
他の二人よりも服の装飾は凝っているし、なにより自信満々に見えるその目が自分は王だと物語っている様に見えた。
「おぉ! 貴女が異世界から来た方ですな。お会いしたかった!」
私を見るなり、目を輝かせながらとても嬉しそうに言う王。
この人が私を呼んだ張本人なのだ。見る限りは歓迎されている様にもとれるけど。
どうすればいいのか分らないでいると、セイゴさんが私の前に立って王の視線から私を隠した。
その様子に、王は見て分るほどに苛立ちを顔に表している。
「よう、久しぶりだな」
「言葉遣いに気をつけろ。私はこの国の王だぞ」
「そんなこと、どうでもいいんだよ。最近、森を無断で抜けようとする輩が増えた。それもこの国からだ。あそこは通行禁止だと何度言えばわかる?」
「なんと、まだそのような者たちがいたか。私は何度も森を通行するなと言い聞かせているというのに、全く話を聞かない奴らだ」
やれやれという様に首を左右に振る王。
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