第六十四話 大事な話
その扉まで一気に走り抜け、勢い良く木の扉を開ける。
部屋の中はどこか薄暗く、光は天井にあるいくつかの窓から降り注いでいるものだけだ。
この部屋は、余り使われていないことが明白だ。扉を開けただけでホコリが舞い上がった。
視界をさえぎるホコリを手で軽く払いながら前へ進むと、そこに人影が見えた。
「やっときたか」
聞き覚えのある声。間違いない、セイゴさんだ。
こちらを振り返ったセイゴさんは頬を赤く腫らしていて、口の端が切れて血が付いていた。
「セイゴさん!」
「……なんで綾とシュタインがいるんだ?」
いつもみたいに、なにも無かった様に話すセイゴさん。
でもその顔が痛々しく感じて、私は眉をひそめた。
「セイゴさんを助けにきたんだよ!」
「何考えているんだ、ここはアォウル国の城なんだぞ」
「セイゴさんが心配だったから、勝手に帰れなかった。私は、セイゴさんをおいてなんか帰りたくなかった」
「今から引き返す気は?」
「ない」
「セイゴ、諦めろ」
「シュタイン、お前がいながらなんで止めなかったんだ……」
大きく深い溜め息を吐いて、頭を数回手で掻く。
セイゴさんはこう言うかもしれないと思っていたから、別に何とも思わない。
私はセイゴさんの元に来たかった。だからきたんだ!
「俺は、今からここの王と話し合いをするんだ。大事な話だ」
顔を腫らしてまで王と話し合い?
無理矢理その王様に連れて来られて、無理矢理ここにいさせられてるんじゃないの?
「ここの城の主は」
先ほどまで静かにしていたシュタインさんが、口を開いた。
「自分が大好きなのさ。自分がよければ良い、自分が全て。そう、昔からそれはかわらない。だから手段も選ばない。御手洗を呼んだ本当の理由は、俺にだってわからない。今までは異世界の者を呼ぶときは、重要な何かをさせることが多かった。村との長年の臨戦状態を解消、それが本当の真実なのか」
「急に何を言ってるんですか?」
「つまり、セイゴは御手洗に何をさせたかったのかを王に聞きにきたんだろう」
チッと舌打ちが聞こえた。
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