第五十九話 デートではない
「シュタインさん、これはなんですか?」
小さく溜め息を吐くと、観念したのかシュタインさんは口を開いた。
「アイツは、王都の者たちに連れて行かれたんだ」
「え、なんで」
「お前たちが物々交換をしている時にいたんだよ。王都の諜報員の女がな」
頭に過ったのは、セイゴさんと話をしていたあの女性。まさか、彼女がそうだったというのか。
「俺はいつも影で監視役をしている。だから、よく来る諜報員の彼奴等の顔を覚えた。セイゴも覚えていたんだろう、そこの壁にもたれかかってそいつの事をずっと監視していたからな。声をかけられた時に、何かを察したんだろうな。俺が来た時には、ここで待ち伏せをしていたらしい数人の男に殴られた後のようだった。頬が赤くなってたからな。その後セイゴはその数人の男たちと歩いて行く途中、俺を見つけて『デートがまだ続きそうだから、先に帰っていてくれ』と伝えて来た」
そんなことが起きていたなんて、想像もしなかった。
のんきにデートをしているんじゃないかって、そんな事を考えていた。
セイゴさんは文字通り、体を張っていたんじゃないか。
「シュタインさん、じゃあ、セイゴさんは連れ去られたってことですか?」
「わざと罠にはまりにいった可能性もあるけどな」
自分の声が震えているのが分る。セイゴさんはこちらに被害が出ない様にしてくれていたのかもしれない。
唇を強く噛み締めると、バッと方向転換をしてゼルギウスさんの元へ走った。
「ゼルギウスさん!」
「なんだ?」
「私、まだ帰りません! 帰れません!」
「は!?」
意味の分からないであろう言葉に、ゼルギウスさんは目を白黒させていた。
でも私は今、セイゴさんを助けたいという気持ちの方が、何倍も大きかった。
セイゴさんの事情を手短に話す。内容を聞いたゼルギウスさんは真剣な目つきで私を見て、一言「駄目だ」と言った。
お願いすればゼルギウスさんは簡単に頷いてくれると思っていたが、やはりそうはいかないようだ。
「一度城に戻って、ツバサに事情を説明してから助けに行くのが得策だろう」
それはわかる。確かにその方が確実だし、危険も伴わない可能性があるんだ。
だけど、今行かなかったらセイゴさんはどうなるんだろう。あんな血が出るような怪我をして、それで無事にすむというのか?
「早く戻って事を伝えないと」
慌てているのか言葉が早口になっている辺り、ゼルギウスさんもセイゴさんが心配で仕方ないんだ。
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