第六十話 向かおう

 ツバサさんに伝えられれば、なにか良い方法だって知っているに違いない。絶対にそうだ。私より頭良いと思うし。

 頭ではそれを理解しているんだ。分ってる、分っているけど。

 もう一度、ゼルギウスさんに声をかけようと口を開けたとき、ドゥフトさんがニヤリと馬らしくない笑みを浮かべている事に気付いた。

 何かを企んでいるような、それでなにかとても楽しい事を思いついたようなそんな笑み。

 あ、嫌な予感。

 そう思った時には既に遅く、私は服の襟を口で掴まれて無理矢理ドゥフトさんの背中に乗せられていた。

 初めてドゥフトさんの背中に乗った時の様に。

 それを見ていたゼルギウスさんは、首を傾げて声をかけて来た。


「ドゥフト、なにしてるんだ?」

「なにって、セイゴだけズルいじゃん? 俺も綾ちゃんとデートしてくるだけだよー!」

「は? お前何言って……って! おい!」


 ドゥフトさんの声が聞こえたかと思うと、ビュンと視界が思い切り揺れたのが分った。ゼルギウスさんの声はもう聞こえない。

 どうやらドゥフトさんは私を乗せたまま、走りだしたらしい。

 視界が上下にも左右にも揺れる感覚で、軽く酔ってしまいそうだった。


「ドドドドドドド、ドゥフトさん! 速い! 速いです!」

「ここで止まったら、セイゴを助けに行けないかもよ?」

「え、なんで」

「だって俺も心配だもん。馬の俺には助けられる可能性は無いに等しいだろうけどさ、綾ちゃんは人間だしね、セイゴを助けられるでしょ?」

「ドゥフトさん、私がなにか出来ると思うんですか?」

「女の子に行かせるのは正直気が引けるけど、綾ちゃんの思いは本物だってわかったから」


 どこか嬉しそうにそういうドゥフトさんに、私は心が温かくなるような気持ちになった。


「それに俺はずっと一緒にいるのは無理だけど、シュタインがいるから安心して!」

「シュタインさん? えっと、シュタインさんはここにはいないんじゃ……」


 言いかけたとき、かなりのスピードが出ている筈の視界の目の前に、真っ黒な羽ばたく何かが現れた。

 間違いない、シュタインさんだ。

 翼を羽ばたかせ私の目の前で飛び続ける姿は、まるで私たちが走っていないかのような錯覚を起こしそうになる。


「俺は監視役だ。お前をちゃんと見ていないと、どうなるか分らないからな」

「綾ちゃんの事心配していたくせにー」

「余計なお世話だ」


 二人の会話を聞いていて、そう言えば会社内でもこの二人は仲良しだったな、なんて思い出した。


「さて、綾ちゃん。これからアォウル国のお城に向かうからね。多分そこにセイゴはいるよ」

「なにが起きるかわからない。覚悟はあるんだな?」


 真剣な言い方の二匹に対して、私はついたじろいでしまった。

 だが、私が決めた事。私がやると言った事だ。覚悟はしている。


「もちろんです!」


 力強く頷いた。それを見た二匹は何も言わずに、城のある方角であろう場所に向かって全速力で進む。

 二匹が何を考えているか私には微塵も分らないけど、でも思っている事は一緒だと思う。

 セイゴさんが、無事でありますように。

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