第五十八話 覗き見


 女の人とのデートで仕事ほっぽり出すとか、私には到底信じられないな。

 セイゴさん自身、もうなんかダメ人間にしか見えなくなって来たよ。

 ふと、セイゴさんが曲がっていった角が気になり、覗いてみたくなった。そろそろと建物の角に近づく。


「おい、御手洗、変な所に興味を持つな。戻れ」


 シュタインさんの声が、どこか低い様に感じた。

 なぜだ、どうして私を引き止めようとするんだ?


「私はただ、気になったからちょっと覗こうと思っただけですよ?」

「いいから、帰れ」


 睨まれているかのようなその声。相変わらずシュタインさんの声は私に恐怖を甦らせる。変な汗出てきた。

 でも、ここまで何故シュタインさんが止めるのかも気になる。

 ゴクリと、喉を鳴らした。


「俺も見る! 気になる!」


 緊張感に包まれていた時、いきなりドゥフトさんが体ごとぶつかって来て、その拍子に角の方へ転んでしまった。

 緊張感もクソもなかった! なんて雰囲気クラッシャーだ!

 転んだ時に、シュタインさんはちゃっかり頭から離れているし! なんなんだよこの動物たち!

 打ち付けた顎を摩りながら立ち上がると、目の前には予想していなかったものが広がっていた。

 そこは広い空間で、まわりは壁で囲まれている。そして、地面にはいくつか赤い液体が落ちていた。これってまさか血?

 目を見開いた。

 ここでなにがあったのか、悪い予感しか浮かばない。

 だって血の跡がある。壁に所々傷もある。なにかの破片も、服の破れたような切れ端だってあるじゃないか。


「ハハハ、何コレ?」


 ドゥフトさんの乾いた笑い声が聞こえる。

 嫌な予感しかしない。こんなところ見て、なんとも思わない人なんているわけない。


「デートじゃないよ、これは」


 顔が引きつって、青ざめて行く。心臓が大きくなっている。


 セイゴさんの安否が心配で仕方なかった。

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