第二十八話 そういうパターン


「あの人って、どうなったのですか?」

「彼には、振り出しに戻ってもらいました」


 つまり、森を抜ける前ということだろう。


「あのくらいの事をしないと、またやって来る可能性がありますからね。再犯は避けたい事態です。私が怖いと分れば、そうそうに近づいてくる事は無いかと思いますし。彼は過去の経歴を見る限り、良い人ではないみたいですしね」


 私の持っている紙に目を通して、小さく溜め息をついた。

 私もその書類をもう一度見てみると、そこには「盗難・窃盗常習者」とはっきり書いてあった。


「これなら用心していても仕方ないですね……ん?」


 なにか今、違和感を感じた。

 書類にもう一度目を通すと、他の人たちよりも長く書かれている文を上から順番に読んでいく。

 なぜか分らないが、つい先ほどまで読めていなかった文、全部読める様になっていた。


「あれ、読める?」

「文字が読める様になりましたか、それはよかった」

「で、でもなんでいきなり」

「長時間文を目にしているとそれに目が慣れて来て、読める様になる事もあると書物で目にした事があります。ならば試してみたら良いのではないかと、この仕事を綾様に協力していただいたという訳です」


 そんなことがあるのだろうか。

 いや、現に今目の前で起こっているのだからあるんだけど。不思議すぎる。

 どの書類を見ても今まで読めなかった筈なのに、名前も職歴も読める。

 私はこの仕事を手伝う前に近くに置いていた、どうしても読めなかった『スパーロの歴史』を開いてみる。

 相変わらずページは上から下まで文字で埋め尽くされているが、冒頭の文から読む事ができ、何が書いてあるのか分った。

 そして不思議なことに、その文を読むと文字の下から絵が浮かび上がってきた。

 その絵は少し動き、脈動感を与えてくる。なんだこれ、凄い。


「さぁ綾様、もう少しですので手伝っては頂けないでしょうか」

「はい!」


 もう文字も読めるし、気合いをいれていくぞ!

 残りの書類を手に取って私は仕事を再開した。

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