第二十七話 侵入者


「そこの者!」


 昔の事を思い出していると、突然ツバサさんが大声を上げた。

 私たちの目の前には、所々汚れが目立つ麻生地の服を着ている、中年のやせこけた男性の姿があった。

 大きな声に驚いたのか、咄嗟に足を止めて私たちの方を向く。

 その顔を見て、私は紙を見た。

 しかし、何故だか紙の上の彼の顔にはバツの印が書かれており、紙の文字も他の者より多い気がする。


「名を名乗れ」

「へ、へい、ラルス・ビエラーと申します」

「そうか、ではラルス・ビエラー」

「なんでございましょう……」

「村へ入って盗みを働くのは、どうかと思うが」


 冷たい声で言い放つ。

 そして凍てつくかのような目で男を睨んだかと思うと、ツバサさんは私の隣から一瞬で移動し、男を地面へ叩き付けて腕を拘束した。


「私には何もかもお見通しだという事を知らない位だ、興味本位でこの村に来たのであろう。ここの門を通る者は、最低限の理解はあるはず。私が全てを見ることができる事も知らないなど、笑えるな」


 相手を見下しながらそういうと、男の背に手を当てて力強く押す。その瞬間、まるで地面が急に柔らかくなったように男の体が沈んでいく。

 いきなりの事で男は這い上がろうともがくものの、まるで意味をなさず、どんどん沈んでいく。それはさながら底なし沼の様だ。


「た、助けてくれ!」

「村に危害を加える者は、この村に入る事は絶対に許されません」


 男は、ばたばたともがくが、その手は空をきるばかりでやがて下半身、上半身と地面へ沈んでいった。

 最後まで助けを求める男の声は聞こえていないのか、ツバサさんは冷ややかな目で沈んでいく男を最後まで見続けていた。

 私は恐怖を感じ、身を震わせた。

 あんな冷たい目で他人を見るツバサさんは初めてだ。本当にこの村が大事なのだろうと実感すると共に、害をなすものには容赦がないということがはっきりと理解できた。

 私が怯えていると感じ取ったのか、ツバサさんはこちらを振り向き困った様に笑うと、頭を下げた。


「すみませんでした」

「あ、え?」

「あのようなやり方を目の前で見せられては、怖いのは当たり前だと思います。謝罪をさせてください」

「そんな! いいんですよ、だってコレがこちらのやり方なんですよね」

「ですが、初めて見る方が怖いと思うのは当然だと思います」


 確かに、地面に沈んでいく人なんて見た事も無かった。

 初めて目の当たりにして、言葉さえも出なかった。

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