第二十六話 通過するために
音をたてながら開かれた門の向こうには、既に人だかりが出来ていた。とても大きな荷物を持っている人から、手荷物程度の人まで様々だ。
うっ、この人たちを全員調べなければいけないのか。思っていた以上に多い気がする。
「これより通過を許可する! 一人一人我らの前を通り、村へ入れ!」
毅然として大きな声を出すツバサさんに多少驚いた。
今から仕事だ。そう言われている気がして、深呼吸をして自身を落ち着かせる。
「まず一人!」
ツバサさんの声を合図に一人の青年が歩き出した。
私は青年の顔を見て、今度は紙へと目を移す。
文字は相変わらず読めないが、紙には歩いてくる青年の顔がはっきりと載っており、彼自身だと判断できた。
ここからどうすれば良いのか、ツバサさんに視線を向けると、真剣な目で私を見つめてくる。
その目がどこか怖くて一瞬身を引いたが、手に持っている紙をさっと渡すと、ツバサさんは確認をとる。
「通過良し!」
その言葉を聞いて私たちの目の前を通過していく青年は、小さく息を吐いていた。
どうやら安心したらしい。
確かに、今のツバサさんは私でも怖かった様に感じたから、青年がそう思うのも無理はないだろうな。
「次!」
青年に気を取られている場合ではなかった。私も言われた事をしなければ。
私は次に来た人に目を向けた。
まるで流れ作業のようにそれは続く。
この場所からは通る人たちの横顔がよく見える。
一人一人きちんと通ってくれるおかげで、私も紙の上の顔と照らし合わせながらの作業ができる。
通る人には青年もいれば老人もいる。けれど共通しているのは、みんなツバサさんの前を通るときだけは緊張しているように見えるが、そのあとは慣れたような顔をしてこの村に入っていく。
何度もここを通ったことのある人たちなのだろうか、たまにツバサさんにお辞儀をしたり手を振ったりとしている人もいた。
そのたびに、ツバサさんもあのキレイな顔で微笑み返す。
なんかいいなこういう関係も。
通過していく人たちの顔を見ながら、紙に目を通していて思った。
よくよく見てみればこの紙、見覚えがあるような書き方だなと思ったらまるで履歴書のようじゃないか。
昔、何枚も書いたから嫌というほど記憶に残っている。
左上にあるのは写真じゃなくて肖像画みたいだが、それでもこの肖像画も正面を向いて真剣な顔つきをしている。
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