第二十一話 恐怖心
カタカタと周りからキーボードを打つ音が聞こえる。
いつも通りの仕事風景。
でも先ほどまで別の場所にいたような、不思議な違和感を感じるが気のせいだろう。
私は完成した書類を手に取り、立ち上がった。
「石橋さん! 書類の処理終わりました!」
「ご苦労様、御手洗」
社内に響く電話音の中、私は近くにいた石橋さんに、書類をチェックしてもらった。
今回は全て完璧に出来ている。ミスだって絶対にないというくらいに自信満々さ!
「……御手洗」
「はい!」
ニコニコしながら石橋さんに顔を向けると、そこにはこの世のものとは思えないくらい怒りに満ちた顔があった。
どうしてそんな顔をしているのか、検討もつかなかった。
「お前、今日でお終いな」
「……へ?」
「クビだ」
低いその声を聞いた瞬間、目の前は真っ暗になり、まるで足元から崩れて真っ暗な穴の底へと落ちていくような気持ちになった。
何を失敗したのかわからない。
でも石橋さんが怒っている。
私、きっとまたなにか失敗したに違いない。
どうして、なんでと言おうにも声がでない。
あぁ、本当に、ごめんなさい。
私はただ、震えながら涙を流す事しか出来なかった。
怖い、怖い。でもこれを招いたのは私だ。私が、この事態を自ら作り出した。
どうすればよかったのか、どうすれば、石橋さんの役に立てたのだろうか……。
「御手洗様、朝でございます!」
突然聞こえて来た声に、バッと勢い良く瞼を開ける。
どうやら会社のことは夢だったようだ。まだドキドキしている。
……本当によかった。心の底から良かったと安堵した。あんな石橋さんみたことないもん。あんな顔を見たら、もう立ち直れないに決まってる。
ハァと溜め息をつきながら体を起こすと、そこには見知らぬメイドさんの姿。
あれ? 私の家にこんな大きなマネキン無かったと思う。しかもメイドって、どんな趣味なんだ。
そう考えて、周囲を見渡すと、そこは見慣れた我が家ではなかった。
あ、そうだった。ここ異世界だ。完全に寝ぼけてた。
昨日、いつの間にかこの世界に飛ばされたんだった。
メイドさんの顔を見てみると、その方は昨日私たちに料理を給仕してくださっていたメイドさんだった。
和室にメイドさんってなんか違和感。
「朝食までは少々お時間がありますが、早めに起床なさっていた方がよろしいかと思いまして、起こしにきました!」
「ありがとうございます……えっと」
「レオナ・グローテと申します。気軽に名前でお呼びくださいませ」
「レオナ、さんでいいですか?」
「レオナで構いませんよ! 御手洗様! 本日からお世話をさせていただきますので、仲良くしてくださいね!」
大きな声で嬉しそうに話すキレイな金色の髪をポニーテールにしたまるでお人形さんみたいに可愛いレオナさんは、明るい笑顔を私に向けた。
元気な人だ。メイドさんって凄い、もうその感想しか浮かばないよ。
「ささっ御手洗様! 着替えをなさいまして、食堂へと向かいましょう! 私が着替えのお手伝いをいたします。服は衣装部屋のクローゼットの中にあるとお聞きいたしました!」
失礼します、と言いながらレオナさんが衣装部屋に移動し、そこのクローゼットを開ける。
そこにはドレスから制服まで、様々なジャンルの服がずらりと用意されていた。
なんだこのクローゼットは。チャイナ服もあるぞ。おい、どうやってこんなにたくさん私の世界の服を集めたんだ、というか誰の趣味だ!
私は絶対着ないであろう服をスルーしながら、奥の方に見つけた。スーツよりも若干デザインが凝っているシンプル目の服を手に取る。
これなら大丈夫だろう。そう思い、レオナさんに手伝ってもらいながら着替えた。
昨日から同じ服をきていたもんな。あ、お風呂入ってない。あとでちゃんと入ろう。
レオナさんに急かされながら、部屋を出て昨日食事をした食堂へと案内して貰った。
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