第十九話 おま、おまっ!


「セイゴも良いですね?」

「勝手にすればいいじゃねぇか。このジョシコーセーを外に放り出すのは、流石に気が引けるってもんだ」


 またもや素っ気なさそうにいうセイゴさん。

 ちょっとまてセイゴさん、今あなたなんて言った?

 ジョシコーセーと言った? 私が? 女子高生? 何年前の話をしていらっしゃるんですか?

 お世辞にも言えないよ。私そんなに若くないよ。そんなに幼く見えるのか。私って大人に見えないのか?


「一体どこを見て、私が女子高生だって思うのですか?」

「コイツが今着ている服はジョシコーセーが着ていた服と同じだろ?ちゃんと本に載っていたぞ」


 どんな本だよ! 女子高生が載ってる本ってどんな本なんだよ!


「セイゴ、流石に服装で判断するのは……」

「なんだよ。それに書いてあっただろう? ジョシコーセーは、カッチリとした制服を着用しているんだろ?」

「それ間違った知識ですから! 制服にも種類があるし!」

「は?」

「私はりっぱな社会人です! 女子高生なんて何年も前の話なんです!」

「ほう、じゃあ違うのか。あぁ、よく見たら、ジョシコーセーにしては老けてるもんな」


 なんだとこのガキ!

 いや、落ち着け。こんなところで怒ってはいけない事ぐらい私には分る。

 そうだ、深呼吸をすればいいんだ! 息を吸ってー吐いてー……うん、怒りはあまり治まらないが、ちょっとは落ち着いた。


「セイゴ、女性にそれは失礼ですよ。口を慎みなさい」

「へいへい」


 本当にツバサさんは紳士なんですけど。

 セイゴさんを黙らせたよ。


「申し訳ありません。セイゴは昔からデリカシーがないもので」

「おい」

「薄々感づいてましたので、大丈夫です」

「それは良かった」

「今のどこがよかったんだ?」

「さて、食事がきましたよ」


 いつの間に来たのか、二人のメイドさんが給仕しはじめた。

 そういえば私、テーブルマナー覚えてない。どんな料理なのか全然分らないけど、こんなお城での食事だから洋食の料理なのははっきりしているよね。

 二人の容姿とか、村の雰囲気からしてそうだもん。テーブルマナー、ちゃんと覚えておくべきだった。昔習ったけど、もう何年も前だから忘れたよ。汚い食べ方したら流石にマズいよね。

 私の食べ方を見て、ドン引きしている二人の姿が目に浮かぶよ。

 ドキドキと緊張をしていると、メイドさんが横から料理をテーブルの上へと置いた。

 皿の上に並べられていたのは、小さく握ってある真っ白な白米、その上に乗せられた一切れにカットされた色とりどりの魚の身たち。そしておはしと緑茶。

 これは、まさか。


「今日は寿司か」

「前々からセイゴが食べたいといっていましたからね」


 寿司? SUSHI? まさかの寿司。異世界に来て、まさかのお寿司。

 さっきまで洋食のテーブルマナーをなんとか思い出そうとしていたところの、まさかのお寿司。

 これは外国に行ったのに、日本食レストランで和食を食べるのと同じ感覚ではないか?

 確かに私も好きだけど、拍子抜けをしてしまったよ!

 もしや、私の為にわざわざ用意してくれたとか……?


「どうかしましたか?」

「あ、いや、まさか、こんなところで故郷の料理がでるとはと驚いて」

「そうですか? 私たち二人は自分の名前も漢字で書く事が出来ますよ」


 ほらと、それぞれ胸ポケットから取り出したのは、『星護』と『翼』の文字が書かれたまるで名刺のような小さな紙だ。

 日本のサラリーマンを思い出した。


「実は今更ですが、この村の暮らしは貴方様の暮らしていた異世界と同じなのです」

「それは、食生活とかがですか?」

「それもありますが、先ほど話したこの村の独自の文化とは、異世界である日本の文化を取り入れたものだからです」

「……日本の文化?」

「えぇ、我々スパーロ民は昔から、多くの日本の文化を自分たちの生活に取り入れてきました。でもこのような文化は他国には奇妙なものと思われてしまったので、疎遠されてきたのも事実です」


 そう困った様に話すツバサさんは、空笑いをした。

 それでも日本の文化をそんなに好きになってくれたなんて、日本人としては嬉しい限りだなぁ。

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