第十五話 またね

「……あぁ、なるほどそういうことですか」


 ツバサさんは何かを納得したように、私の手をじっと見ていた。

 何に納得したのかよくわからないが、ただ一つ言えることがある。

 イケメンに手を握られると、手汗がいつも以上に出る!

 あぁ! これまずいやつ! 早く離さないとツバサさんの手がビチョビチョに!

 そんなこんなで私が混乱していることに気づいたのか、ツバサさんは笑顔で手を離してくれた。


「お怪我がなくて何よりです」


 紳士か!


「ツバサ、後は任せた」

「じゃあ俺たちは森に帰るね」

「皆、彼女をここまで送ってくれてありがとう」


 えっ、と声を零しそうになった。

 動物たちは村に住んでいるわけではなく、森に住処があるようだ。

 なぜか、ずっとついて来てくれると思い込んでいた私からしたら驚きでしかない。


「一気に不安そうな顔になったな」

「森に来てくれれば、また会えるから大丈夫だよー」


 安心させる様に言ってくれる、シュタインさんとドゥフトさん。

 他の動物のみんなも心配そうに私を見ている。

 この目、今日見るのは二度目だ。

 全員で倒産した会社を去る時に、皆は不安そうな顔をしていたけれど、それでもお互いにお互いを気遣って心配そうな目を向けていた。

 私は唖然としていてあんまり覚えてないけど、でもその姿を見てやっぱり仲間だったんだって思った。

 ここからは、一人で進むんだ。いつまでもうじうじなんてしていられない。皆に心配をかけたくなくて、元気な声を出す。


「皆さんのおかげで助かりました! ありがとうございました!」


 いままでの感謝を込めて、頭を下げてそう言う。ぎゅっと握りしめた手が、とても熱く感じる。


「御手洗、がんばれよ」


 頭上に降って来たその言葉が、まるで石橋さん本人に言われている気がして、思わず顔を上げた。

 そこには石橋さんの姿はやはり無く、既に森へと向かっている動物たちの後ろ姿しか見えなかった。

 その姿に無償に寂しさを感じて、私は思わず「本当にありがとうございました!」と先ほどよりも大きな声で言う。

 私の声に反応してくれた動物たちは一度振り返り、笑顔で首や尻尾を振りながらまた森の奥へと向かって歩いていった。

 がんばります。みなさん、私がんばりますよ!


「それでは参りましょう」


 私はツバサさんの後について歩き出した。



 歩き出した私たちの背中をちらっと見たドゥフトさんはシュタインさんに話しかけた。


「ねぇ、綾ちゃんの呼ばれた理由ってあれだけじゃないと思うんだよねー」

「だろうな。異世界の者を呼び出すということは、何かしらの禁忌を犯す可能性もある。それに、御手洗は特別な何かがあるようだしな」

「俺たちに最初にあってるっていうのがまさにね。それにツバサは気付いてると思う?」

「当然、気付いているだろう」

「さっすがツバサだなー」


 そう言ってケタケタと笑いながら住処へ戻っていく二匹のことを、私は知る由もなかった。

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