第十一話 お疲れ様です
何十分も馬の背中で揺さぶられて思考回路が停止しそうになった時、だんだんと走るスピードが遅くなるのを感じた。
本当はそんなに長い時間ではなかったみたいだけど、その間に私は音速を超えたような感覚を体験したよ。
未だに頭が揺さぶられているような感じがしているがなんとか前を見ようと、しがみついていたドゥフトさんの首から身を起こす。
ゆっくりと周囲を見てみると、森はどうやら抜けたようで、さっきまであった森林は姿を消しており、地面に綺麗に刈られた芝生が生えていた。
目の前には所々ボロボロになっている壁。右を見ても左を見ても壁しか見えないのでどうやらかなり長いらしい。
そんな壁の前に生えている一本の立派な木の前で、ドゥフトさんは立ち止まった。
葉っぱの隙間から見える赤い物はきっとこの木の実だろう。
昔こんな木を兄と木登りしたなとのんきに思い出した。
「おい、見張り役。今日も寝て仕事をさぼっていないだろうな」
ドゥフトさんの頭にとまったシュタインさんは、その木の上へと声をかけた。
生い茂っている木の葉が邪魔をして私には全く見えないが、どうやら誰かがそこにいるみたいだ。
だが、返答は一向に返ってこない。
「寝ているみたいだね、シュタインさん」
「間近に敵の兵士が来ているっていうのに、コイツは白昼堂々と寝やがって」
舌打ちをしそうな勢いのシュタインさんは、木の上を睨みつけた。
九官鳥なのに怖い! 石橋さんを思い出してしまう!
木の上の人、早く起きて! 私が耐えられないよ!
「いたぞ!」
後ろから聞こえてきた声。振り向くと、そこには中世時代の西洋風な甲冑を胸だけにつけた数人のおじさんの姿。
髪の毛はぼさぼさで、無精髭が生えたままの見た目からして不潔そうな人たちなので、シュタインさんが言わなければ私は山賊と間違えたかもしれない。
「こんなところにいたのですか」
敬語で話しかけるその言葉に、この人たちはきっと私を探しに来たんだと思った。
動物たちが、威嚇をしそうな目でおじさんたちを見ているのがわかる。余程嫌いな様だ。
「そちらの村には貴女様は用はないはずです。早くこちらへ来てはくれませんか?」
一人のおじさんが、私に向かって手を伸ばしてきた。私を連れて帰りたくて仕方がないようだ。
でもさ、見た目って本当に大切だと思うんだ。
私今、そっちに行きたいとか微塵にも思わない。
大変申し訳ない話なのだが、スズメさんと比べたら天と地ほどの差だよ、おじさん。
せめて、せめて髪とか髭とかを綺麗にしてから来てほしかった。
確実にこの森に入る前に会った時から、そんな容姿だったよね。
就職活動のときも見た目が大切、第一印象が一番大切って教わったけど、こうして見るとやっぱり本当に大切なんだなって改めて思う。
何かに耐える様にぐっと視線をそらした私を不審に思ったのか、おじさんたちは一歩前へ出た。
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