第九話 もう一度出会う
まさかこんなところで会社の仲間とご対面するとは。
みんな容姿がこんなに変わってしまって……。
女性の先輩方と後輩ちゃんは小鳥とか可愛いウサギとか。うん、めちゃくちゃ可愛い。
そして部長はガタイのいい熊で、課長は気怠そうな狐とは。うぅ、イメージにぴったりすぎて笑えない。
そんな事を考えている間にシュタインさんの説明が終わったのか、のしのしと熊が私の前へやって来た。
ぶ、部長が来たぞ!
失礼な事はできないぞ!
「足が痛いのか。よし、じゃあ俺の背中にのるか」
「ヴァッサーさん、流石にアンタの背中じゃ怖いと思う」
うわぁ、やっぱり部長の声だよ。間違ってなかったよ。
部長の背中に乗るとか、私には無理な事だよ! 丁重にお断りさせていただきたい!
「ハハハ、そうか熊は怖いか、確かに肉食だもんな」
「人間が乗りやすい動物って一体なんだ?狐の俺?」
「いや、狐に人は乗らないだろうよ、大きさを考えた方がいい」
私からしたら課長に乗るってことになるので、こちらもご遠慮したい!
「じゃあ鹿ではどうでしょう。私がお乗せしましょうか?」
この声は会社一の美人関根先輩の声だよ。
やだよ私、そんな人の背中に乗るなんて。
もう歩きます! 自分で歩きますから勘弁してください!
シュタインさんにそう言おうと思って口を開けかけたとき、不意に足が宙に浮く感覚がした。
え、と声を出す間もなく私は背中を誰かに掴まれて放り投げられた。突然視界が回った。
高く投げられた訳ではないが、落ちて怪我をすることは覚悟して、痛みに耐えるため目を瞑る。
私の体はドスッと胸から落ちた。痛い。
だがその痛みは地面に落ちたような激しい痛みではなく、どこか柔らかい所へ落ちたようだ。
恐る恐る目を開けてみると、視界いっぱいに広がる、真っ黒なたてがみと焦げ茶色の長めの首。
いつもの自分の視線よりも高い。これは、どうやら馬に乗せられたようだ。
というかまさかの馬登場。この森本当に何でも住んでいるんですね。
「ドゥフトさん! いきなりそんなことしたら危ないですよ!」
そういいながら小さな体をピョンピョン跳ねさせているのは、私の後輩の声をしている茶色いウサギだ。
私の為に怒ってくれている姿、本当に可愛いんだけど。
怒られている馬は首を数回ふり、ウサギに視線を合わせるため首を下げた。
「いいじゃん、いいじゃん。人を乗せるっていうのは俺の役目なんだしさ。こういうときに俺を使わなきゃ駄目でしょ!」
この声は、会社一お調子者って言われてる斉藤さんだ。社内で一番明るくて、盛り上げ役の人。
「俺が一番適してるの! ねぇ綾ちゃん!」
こういう風に話を振られたらなにを言っても断れないという事は会社で経験済みだ。
もうここは強制的にこの馬に乗るしか無いだろう。
「じゃあ行こう!」
「ちょっとドゥフトさん!」
「ヴァッサーさんもなにか言ってください! 一番偉いんですから!」
「うーん、いいんじゃね?」
「なげやり!」
ヴァッサーさんと呼ばれた熊さん、やっぱり偉いんだね。会社と上下関係が一緒みたいで、なんか面白い。
動物たちが文句を言っているのも無視して、ドゥフトさんはどこか楽しそうに歩き始めた。
でも私からしたら本当にありがたいので、大人しくしていることにする。
みんなの声を聞いていると会社を思い出すな。社員全員が集合するなんてことはもう叶わないと思ったけれど、まさかこんなところでそれが叶うとは。
私は嬉しくてつい微笑んでしまった。
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