第八話 聞き覚えのある声


「つまり、御手洗は村の力になってくれるってことでいいんだな?」

「……その状況によりってことで、まだ判断中です」


 でも、今でも思い出せるスズメさんの表情は本当に、助けてやってほしいという目をしていた。その理由は教えてくれなかったから分らないが、だがあの目を見捨てられるほど私は腐ってはいない。

 こちらに来て初めて出会ったのがスズメさんで、キレイなお兄さんにお願いされたからかもしれないけど、あの辛そうな表情はなにかあるに決まっている。


「御手洗はお人好しそうだ。是非とも村の力になってくれる事を願っている」


 目を閉じて頭を下げたシュタインさんは、話を聞く限りどうやら村に味方する動物らしい。

 動物にもアォウル国の王様は嫌われているんだな。理由をそろそろ教えてほしいよ。


「まずは、この森から出て村へ連れて行ってやろう」

「え、いいんですか?」

「村にいる『彼ら』とやらに会わなければならないんだろう。俺はこの森に住んでいるから、抜け方も知っている」


 やったね! 石橋さん、じゃなくてシュタインさんいい人! 違った、いい鳥!

 つい数分前まで精神的にまいっていたのが嘘の様に、私今希望に満ちているよ!


「御手洗の言う『彼ら』というのも、大体検討はついている」

「本当ですか!」

「その彼らとやらの一人が昼間は森で見張り番をしているから、そこに行こう」


 なんてグッドタイミング! 悪い事があったあとは良い事が待っているとはこのことだね!

 思わず両手を叩いて喜んだ。私はかなりハイテンションになっている。


「ところで、御手洗は随分歩いたようだな」


 シュタインさんは、いつの間にか視線を私の足へと向けていたようだ。

 履いていたパンプスはいつの間にかボロボロになっており、このままでは歩きづらいことが目に見えてわかる。

 立ち止まっていると、じんわりと足から痛みも感じる。

 これ多分足にまめができてるよ。うわー足見たくない。


「どのくらい歩いたのか時間まではわかりませんが、とにかく必死に歩いてきた事だけは認めます」

「これではこの後が辛いだろ、他のやつに乗せてもらって移動しよう」


 そういうと、シュタインさんは大きな声でピーっと森に響くくらいの鳴き声を上げた。

 するとものの数秒で、ガサガサと私たちの周囲には様々な動物たちが姿を現した。

 この森にはこんなに動物が生息していたのか。全然気付かなかった。

 私が部外者だから、姿を現さなかったのかもしれない。確かに、得体の知れない奴が現れたら警戒するのも当たり前だ。


「シュタインさん、何の御用ですか?」

「森で迷った者がいるんだ、俺たちでアイツの所に連れて行こうと思う」

「そのまま森の中で迷わさなくても大丈夫なの?」

「へぇ、森で迷う奴なんて何年ぶりだろう」

「最近は道が整備されて、そっちを通る人の方が多いですからね」


 ぺちゃくちゃと様々な動物たちが話し合っている。

 言葉を失った。

 通常は喋る事ができない動物が、目の前で会話を繰り広げているということで驚いたんじゃない。


 この話している動物たちの声、全員私の会社の社員の声だ。

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