第七話 ある意味再会
大きさは私の手のひらほどの、小さな小鳥だ。
「……石橋さん、鳥になったのですか?」
「俺は元から鳥だ」
「カラスですか? 石橋さんならどんな姿でもカッコイイと思いますが、黒い鳥なら私はカラスは定番かと思います」
「目元を見てみろ、黄色いだろ。九官鳥だ。ちなみに名前は、シュタインだ」
話し方といい、態度といい、この人完璧に石橋さんだよ。シュタインじゃないよ、貴方は石橋さんだよ。
「それで、お前は何をしに森に入った?」
「私、異世界からなんか呼ばれたらしくて、そこで会った人がこの森を抜けて村に行けっていったんです」
今のこの状況が不思議なのは、百も承知である。鳥とちゃんと会話しているなんて、誰が信じられるか。
そもそもこういうときはインコとかオウムが定番の筈なのに、まさかの九官鳥のご登場。マイナーではないですか?
確かに九官鳥も喋るけど、こんなに流暢に話すなんて聞いた事も無い。
でも私はこの声に逆らえない。見た目が全く違っていても、石橋さんの声は体に染み付いていて離れないのだ。
返答するのはもう条件反射と言っていい。だって本当に怖かったんだよ、石橋さん。まぁ今の石橋さんは身長もなくて髭もないから、そこまでは怖くないけど。
「森に入れ? 正規の道を通って門に向かうのではなく?」
「はい、そもそも正規の道がある事自体、初耳です」
正規の道があるのかい、と心の中でツッコミを入れた。
おい、スズメさんどうなっているんだ。確かにあの状況では伝え忘れもあるかも知れないけど、初めて森に入る人に、それはないんじゃないか。
「それで、お前名前は?」
「御手洗綾っていいます。石橋さん忘れないでください」
「だから俺はシュタインだっての。誰だよ石橋さんって」
「私が未来永劫逆らえない、尊敬している上司です!」
手を挙げて大きな声で言うと、石橋さん、もといシュタインさんは哀れんだような目で私を見て来た。
なんですかその目は。今までそんな目の石橋さんなんて見た事ありませんよ。
「それで御手洗は、異世界から来たのか?」
「はい」
「なんの目的で?」
「国の領土を拡大するのに必要な村との長年の臨戦状態を解消すべく、呼ばれたらしいです」
その言葉を聞いて、シュタインさんはピクリと体を動かした。
なんだなんだ? なにかマズい事でも私は言ったのか?
「……お前はアォウル国の使者ってことか」
「アォウル国というのが今私が来た方角にある国でしたら、そうなります」
「そうか。それで御手洗は国の命令で村に向かっていた、という事でいいのか?」
「そうだったらしいのですが『村に行って、彼らのに協力してもらいたい』というのは魔導士さんにいわれまして、私を見つけに来た国の兵士さんたちから逃げて、なぜかわからないまま今の状況になりました」
その言葉を聞いたシュタインさんは、今度は目を少し開いて驚いている様に見えた。
私の返答が予想外だったのだろうか。
「御手洗、それじゃあ裏切り者と一緒だぞ」
え? 何してるのコイツ? 訳がわからないといった表情が私の心に突き刺さって来くるのは、気のせいだと思っておく。
「そうなんですよ! この国に呼んだくせに、呼んだ張本人の王様にも会えず、こんな森の中を真っ直ぐ進んで村へ行けって! 見ず知らずの土地に一人取り残されて知らない所に向かうなんて、絵柄が無いジグソーパズルを組み立てろって言っているようなものじゃないですか!」
「たとえ話がよくわからないが、とりあえずお前が苦労している事は今分った」
「石橋さん、貴方がいなくなってから、会社は大変だったんですよ」
「今の流れで俺に文句を言っているというのは分るんだが、意味はわからん」
上の立場だった石橋さんがいなくなって、皆で仕事をこなすのが大変だったんだよ。
最初はてんやわんやだったしね。先輩も私も。毎日徹夜続きだったのは今では良い思い出だ。
しみじみと思い出していると、シュタインさんは近くにあった枝にとまって羽を休めた。
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