第三話 そうきたか

 大将が冷房をかけているのだろうかと思ったが、今は季節が秋。肌寒くなって来た気候だ。そんな中、大将は冷房なんてつけるような人ではない。ましてや「電気代がもったいない」といって、真夏に冷房をいれなかったくらいだ。

 あの時は流石につけてくださいよと思ったが、と話がそれてしまった。

 ゆっくりとお兄さんから視線を外して横を見ると、ついさっきまであったはずの質素な洗面台が、なぜかライオンの口から水が出ている。豪邸にありそうな噴水に変わっている。なんで、こんな所に噴水があるんだ? 改築工事するなんてきいてないぞ。

 次に反対を見ると、壁があった筈の場所には、広い石畳の道に沿う様に並んでいる大きなレンガ造りの家々。まるで外国の光景だ。それに、さきほどまでキレイなオレンジ色の夕焼け空だった筈の空が、今じゃ真っ昼間のキレイな青い空へと変わっている。こんな光景は、ありえない、つまり。


「私は、どうやら酔いがかなり回っているようだ」

「残念ながら、現実ですよ」


 これは夢で、いつの間に眠りについたんだろう、大将に迷惑かけちゃうなー。とか思っていたのに、お兄さんが冷静にツッコミを入れてくる。いやいや、ありえないよ。


「私の夢だからって勝手な発言はやめましょうかお兄さん。そうだよ、そもそもこんなにカッコいい人と出会う事自体が可笑しいんだよ、夢以外なんだっていうの。あんな小さなこざっぱりとした居酒屋に芸能人顔負けのイケメンが現れる訳が無いんだ。わぁ、私夢を夢として自覚するの初めてだ、やったね」

「自己完結しているところ大変申し訳ないのですが、これは現実です」


 冷静に私の言葉に返すお兄さんの言葉を、信用できるはずもなかった。

 確かに人類の進歩はかなりめざましいものだが、異国転移装置が発明されたなんて聞いた事ないよ。あれ未だSFの世界の話だし。

 でも、引き下がる事は一切しないらしいお兄さんは、真面目な顔をしている。

 ここはひとまず、話に乗る事が大事だ、と思った。

 ほら、先輩にも人の話はちゃんと聞きなさいって言われたし。


「わかった。とりあえず、お兄さんの話が本当だという事にする。ここは、現実って設定ね」

「とりあえずでもお話を聞いてくれるだけありがたいので、信じてもらうのは後回しにします」

「それで、ここは外国のどのあたり? 日本でない事は確実だと思うけど」

「ここは、貴方のいた世界とは別の世界の国です」

「……ごめん、まずそれについていけない」


 手を前にだして、お兄さんに静止を求めた。まさかの地球ではないパターンとは、予想外だった。

 いや、でも小説とかでよくある話だし、よし、整理がついた。

 私は手を下げて続けてくださいと言うと、律儀に待ってくれていたお兄さんは話を再会した。


「今僕たちのいるこの国は領土拡大のため、とある村を国の領土にしようと考えています。しかし、村の人たちはある理由の為に、その交渉を拒み続けています。長年の臨戦状態を解消すべく、この国の王に仕える魔導士が古き魔法を用いて、貴方をこちらへお呼びしました」


 なるほどなるほど、そういう訳。

 小説では良くある、異世界トリップというやつですね。

 そんなのいつの間にしたんですか、私気付かなかったよ。だってトイレいったらいつの間にかここにいたんだもん。

 相手に気付かれずにこちらの世界へ来させるなんて、ここの魔導士さんとやらは、きっと凄い力をもっているんだ。

 まぁその辺のことは置いておこう。魔法が存在する事も、ひとまず置いておくとして。


「つまり、私はこの国の王様に協力すれば良いのね?」

「いえ、違います」


 即答するお兄さん。あなた今協力してほしいって言ってなかった?


「言ってる事が矛盾していると思うんだけど、私の聞き間違いではないよね」

「えぇ、もちろん」

「なにをすればいいのよ」


「貴女にはその村に行ってもらい、彼らに協力してもらいたい」

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