そして時は過ぎ

「あ、あ」

「どうした?」

 窓のカーテンは閉まっている。それじゃ、どこから?

「いやさ、そりゃあ、信じられないのは分かるけど、俺は正真正銘の幽霊なの」

「そんなこと言われてもさ。これ、なんかのトリックだろ?」

「映画の見すぎじゃない?そんなトリック無理に決まってんだろ。sbkさんの新住所がどこかなんて分からないわけなんだからさ。仕掛けを作りようがないじゃん」

 理論的なような気がするけど何か違うぞ。


「じゃあ、最初の質問に戻るぞ。どうやってここに来たかというと、インターネット回線を通じて来たのさ。前回俺のホームページ見たときに、そのパソコンにダウンローダーを仕掛けた。で、今日はそれを起動して俺の意識をそのパソコンに取り込んだわけ」

「ダウンローダー?どうやってそんなものを?」

「だから、ホームページを見たときにさ。ドライブバイダウンロードってやつ。ホームページを見ただけで勝手に入り込んじゃうプログラムなんだよね。それ自体はサイズも大きくないし単純で、他のプログラムを呼び寄せる機能しかない。ま、要するにコンピュータウイルスに感染してるようなもんだね」

 何勝手に人のコンピュータに仕掛けてるんだよ……。


「あ、でも安心して、変なものは取り込まないから」

「でも、このパソコンはウイルス対策ソフト入ってるのに」

「まあ、俺の方が優秀ってことかな」

 嬉しそうに笑う。


「ということは、あのホームページを見た人全員のところに行けるってこと?」

「ああ、なので、直にリンク踏まないようにしないと見れないようにしてる」

「そうなんだ。それで、人のものに変なもの入れてひどくない?」

「いや、だってsbkさんが顔見せろって言ったんだからさ、俺は悪くないべ。無罪、無罪、ノット・ギルティ」

「そりゃ、そうだけど」

「だいたいさ、こうやって来るのも結構大変なんだぞ。通信途中で途切れたら、もう最期だしさ。通信に時間はかかるし、プログラムの解凍が終わるまで活動できないし、結構制約多いんだぜ」

 そうか、それなのにわざわざ僕のところに来てくれているのか。


「ああ、ごめんなさい」

「分かってくれりゃ、いいのよ」

「でも、なんか、幽霊とコンピュータって不思議な組み合わせだね」

「そうか?人の考えや思いだって、所詮は脳の中の電気信号なんだぜ。コンピュータと構造や論理は違うが変換できないわけじゃない」

 なんか強引な気がするけど、目の前のこの光景は現実だ。


「それでさ、さっきの話だけど、他人のコンピュータに入るプログラムって簡単に作れるの?」

「お、なんか悪いこと考えてるな」

「違うよ。単に知りたかっただけ」

「ふーん。まあ、好奇心ってことでもいいけどさ。ただ、好奇心は大事だけど、気を付けないと身を亡ぼすぞ。ほんのちょっとした好奇心で始めても、他人のコンピュータに侵入すれば犯罪だ。犯罪者の家族なんて重荷背負わせたくはないだろ」

「そうだね」

「説教臭くて悪いな。しかも、俺が言ったんじゃ、説得力ゼロだ」

「そんなことないよ。良く分かった。気を付ける」

「素直で結構。まあ、もうちょっと大人の分別がついたと判断したら教えてやるよ」

「ありがとう」

「それじゃ、そろそろ質問タイムは終わりでいいだろう。1週間放置されてたんだ。遊びにもどるぞ」


<やったぜえええ>

<おめでとー>

 ”遺産の守護者”が倒れる。平均レベル80の味方グループも満身創痍だが、俺と”ヨッシー”さん、”マックス”さんはかろうじて生き残っている。数年前、ゴタゴタのあった”マックス”さんとは、その後仲直りして以来、割と良くつるんで遊んでいる。


 ”ほげほげ”を出て行ったものの、他所の大手とも結局折り合いがつかず、俺が転居してすぐに向こうが詫びを入れて来たので”ヨッシー”さんが受け入れた。それ以来、すぐ熱くなるのは相変わらずだが、暴言は吐かなくなったし、意外とムードメーカーで一緒にやっていると盛り上がる。


 期待のアイテムドロップは……。ひでえ、職業が違うため装備できないものばかりじゃないか。

<なんか、運営の悪意を感じるな>

<奇遇ですね。俺もそれを感じてたところですよ>

 仕方がないので、全部分解して、装備強化用の素材にする。やはり、ものがいいだけに結構な数の素材になった。まあ、パーティ全員が恩恵に預かれるからこれはこれで良かったのかも。さすがに疲れたので今日は解散ということになる。


「で、どうだった?カノジョと仲直りできたか?」

 興味津々といった表情だ。

「まあ、問題ないから”遺産の守護者”戦に参加してたんだろうけど」

「そうだね。うまくいったんじゃないかな」

「ほうほう。それは良かった」

「ただ、カノジョってのにはまだまだ遠いからやめてよ」

「まあ、願望込みってことで。それに、ただのお友達以上になりたいっていう啓太の気持ちはきちんと伝えたんだろ」

「相手に伝わったかどうかは分からないけどね」

「まあ、いいだろ。たぶん分かったはずだ」


「ヨッシーさん、そこにこだわるってるけど何で?」

「うーん、はっきり言っていいか?」

「うん」

「お前ってさ、いい奴だと思う。ただ、異性としてみたとき地味なんだよ。だから、うかうかしてるとただのお友達でずるずるいって、そのまま関係が終わるリスクが高い」

 なんかものすごくひどいこと言われてる気がするぞ。


「不満そうな顔してるな。いや、ただディスってるわけじゃないぞ。啓太は啓太の魅力がある。たぶん、もう少し大人になったらその点は評価されるだろう。ただ、高校生だとさ、そうじゃねえんだ。顔がいいとか、メジャースポーツのスター選手とか、見えやすい指標がポイント高い」

「その通りかもしれないけど、地味に傷つく」

「しょうがないじゃん、イマドキの流行りは稚児かってぐらいの優男の方がウケがいいんだろ。まあ、俺は啓太みたいに骨太い感じの方が好みだけどな」

 そういって、意味ありげな視線を送ってくる。え、あの、ヨッシーさん?妙にムズムズするんですが。


「えーと、俺が友達で終わりやすいって話の続きは?」

「ああ、そうそう。それでさ、その片倉さんにはきちんと啓太の意向を柔らかく伝えておかないとな」

「じゃあさ、ストレートに付き合ってって言った方が良くない?」

「お前、それできるの?」

「う、やれっていうなら……」

「無理するな。それに、片倉さん相手にはあまり有効じゃない」

 そこに、スマートフォンのCHAINの新規メッセージ有の合図が点滅する。

「お、噂をすればなんとやらじゃないか」



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