占いサイトの罠

 終業のチャイムが再び俺を現実に戻す。今日は水曜日なので、5限で終了だ。そそくさと帰り支度をして、自転車置き場に向かう。今日は朝から雨なので、人気はない。俺も今日は歩きとバスで登校した。自転車置き場でスマートフォンを取り出し、CHAINを起動する。うちの学校は、情報教育強化特別指定校とかで、学校へのスマートフォンの持ち込みと使用は別に禁止されていないが、許可なく授業中に使用するのと歩きスマホは厳禁だ。中川をタップし、メッセージを送る。

<さっきはありがとな>

<わざとあの場では何も言わなかったけど、竹井に怒られずにすんだよ>


 自宅マンションのエントランスで確認すると中川からメッセージがいくつか入っていた。

<貸しひとつな。かわいこちゃんとお話ししたせいで、ぼーっとしてんじゃねーぞ>

<ま、俺は問題教えただけ、解いたのはお前だ。それと俺がサポートしたのが分からないようにしたのは上出来だったな、主演男優賞をやるよ>

<これから予備校だ。じゃあな色男さん>


 こんな感じだが、中川に悪意はない。勉強は良くできるようだが、別にそれを誇るようでもなく淡々としている。もっとランクが上の学校でも入れたんじゃないかと聞くと、あんまギスギスした環境は好きじゃないんでな、と言う。一見秀才タイプで人付き合いが嫌いなように見えるが、着かず離れずのちょうどいい距離感で話ができる奴だった。席が近いので世間話をしているうちに自然と親しくなったのだが、俺が学校関係でCHAINの連絡先交換をした数少ない相手だ。ただ、最近は学校ではあまり親しい姿を見せないようにしている。何も藤川のターゲットを増やす必要はない。

<マジ助かった。この借りは今度返す>


 20時に妹が寝てから、CALにログインする。当然のようにいる”ヨッシー”さんにあいさつし、他の仲間がそろうまで、オート戦闘しつつ、別ウインドウでチャットルームを開いて、今日の出来事を話す。

<ヨッシー:そいつは変だな>

<sbk:何が?>

<ヨッシー:だって、その片倉って子、sbkのCHAINアカウント知ってんだろ。前にそう話してたよな>


<ヨッシー:そのインチキ占いサイト、生年月日は任意項目だろ。わざわざ聞きに来なくても占いはできるじゃないか>

 確かにその通りだ。


<ヨッシー:そもそも、所詮お遊びなんだから、プロフィールの公開されている適当なアイドルの情報を入れてもいいわけだ。それをわざわざsbkのとこにやってきて入力するよう要求したってことは>

<sbk:どういうこと>

<ヨッシー:その子がsbkとのラブラブなところを見せつけたかったんだろうな>

 この人、マジメな話をしているときに急にはぐらかす癖がある。

<sbk:んなわけないでしょ>

<ヨッシー:まー、sbkとの相性占いなよって言われて、アカウント知ってることをゴマカスためというのも考えられるが、「ただの友達だよ」って言う方が自然だよなあ>


<sbk:そうですね>

<ヨッシー:あ、ただの友達って言われてちょっと引っかかっただろ>

 あれ、なんで胸がチクりとするんだ。だって、実際友達だろ。というか、知り合い?

<sbk:違うよ>

<ヨッシー:まあ、いいや。まじめに言うとだな。その子、自分では占いをしようとしたけど、誰かに止められたって姿を見せたかったんじゃないかな>

<sbk:え?>

<ヨッシー:sbkのクラスの誰かにね>

 しばらく考えて、はっとした。自然と頭に血が上る。

 

<ヨッシー:いや、本当に汚ねーな。マジ***>

<ヨッシー:う_んこ>

<ヨッシーさん、伏字になってるのわざわざ打ち直さなくていいから>

 おかげで少しは冷静になれた。


<sbk:誰かが片倉さんをはめようとしている。なんとなくそれに気づいた。でも、片倉さんが占いをしないと、片倉さんにそれを直接言ってきた相手が責められる。その人をかばうために他人から止められたのを見せる必要があった>

<ヨッシー:ご名答。いい推理だ。それでな、この推理が正しい場合のsbkの立ち位置なんだが、その子に信用されてたってことだと思うよ>

<sbk:1組の誰でも良かったんじゃない。たまたま、俺がいただけで>

<ヨッシー:うんにゃ、それはない。その子のデータは正確に入ってたんだろ>

<sbk:生年月日が正しいかは分からないけど、残りはたぶん正しいと思う>


<ヨッシー:じゃあ、相手がデータを入れて送信したら、その子のデータも一緒に流出するわけだ。誰でも良くはないんだよ。自分の大切な個人データを託せる相手って信頼されてたんだ。もちろん、相手も巻き込むことになる。こんな**げたこと止めてくれるって信じられてたんだよ>

<ヨッシー:ああ、**、うましかな。規制面倒だな>

<sbk:俺を信頼してた?>

<ヨッシー:ああ。さっき、ただの友達って言ったな。あれは間違いだった。少なくとも大切な友達だよ>

<sbk:そういうの、俺は許せないな>


<ヨッシー:罠にはめることを計画した奴か?それとも占いサイトを実際に見せた奴か?>

<sbk:両方だよ>

<ヨッシー:で、どうする。今話したことは、たぶん間違ってないと思うが、証拠がない。それに実害が発生していないんだ>

<sbk:片倉さんに聞けば、見せた奴は分かる。そこからたどれば>

<ヨッシー:無駄だね。俺の見立てが正しければ、その片倉って子は言わないよ>

<sbk:そんなの分からないよ>

<ヨッシー:やめとけ、やめとけ>


 少し、間が空いて、

<ヨッシー:って言ってもダメそうだな。そこまで言うならまあ聞いてみればいい>

<sbk:そうしてみるよ。ヨッシーさん色々とありがとう>

 気づくとパソコンの別ウィンドウが点滅してる。誰かがログインして呼んでるようだ。

<ヨッシー:どういたしまして。さ、楽しい時間の始まりだと言いたいが、先に用事済ませちまえよ。待っててやるからさ> 



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