第12話 世津町 下

 呼子達と別れ、一と明莉はついに薬見川河川敷へ赴く事になった。事件に関する情報は当てが外れたが、いつまでも後回しにしてはいられない。

 薬見川を横切る橋を渡り、土手へ逸れて現地を目指す。すると道の向こうから、ピンクのスーツを着てマイクを持った女性と、大きなカメラを持った男性の二人組に行き会った。

「あれ、もしかしてテレビ局の……」

「そうですねぇ、確か世津テレビっていうローカルな局っすけど、まあこれだけの事件が報道されているんすから、アナウンサーがいてもおかしくないっすね」

 アナウンサーらしき女性はカメラマンの方を見ながらリポートしているようで、はきはきとした鮮明な声調が聞こえて来る。

「……このように、今は人影もなく、犯人を恐れて近づく住民もいないようです。以上、現場から中継しました。スタジオへ返します」

 とそのあたりでお互いの顔が見えるくらいの距離になり、中継を終えたらしい女子アナウンサーが足を止めた。

「あら……あなた達、このあたりに住んでる子?」

「え……あの、いや俺は……」

「良かったら話を聞かせてもらえないかしら。何かを目撃したとか、聞いたとか……思い当たる事があったらなんでもいいの」

 聞きたい事がある割りに返答すら差し挟ませないほど積極的に話しかけて来るため、一は勢いに呑まれてまともに返せずにいた。そこへ、予期せぬ助けが割って入る。

「あーもしかして! あなたは荒見あらみ アナっすよね? ほら、歯に衣着せぬ穿った物言いから今世津テレビで人気急上昇中の! こんなところで会えるなんて夢みたいっす!」

 明莉である。さりげなく一を後ろへ引き戻しながら身体を入れ替え、先ほどの荒見よりもなお怒濤の如く言葉を畳みかける。その威勢の良さに相手も面食らったようで。

「え、ええ、覚えてもらえていて嬉しいわ……ところであなたは……?」

「あ、申し遅れました私、こういう者っすー! 荒見アナに憧れて新聞部で活動中の記者の卵といいますか!」

 あらかじめ用意していたかのように名刺を手渡し、いっそう距離を詰めていく明莉。

「今日ももしかして取材中なんでしょうか? やっぱりあれっすよね、今もっともホットな薬見川河川敷で起きた謎めいた怪事件についてっすよね? いやぁこれについては不肖私も色々と調査中でして、良かったら荒見アナの手腕を色々とお聞かせ願いたいなと」

「そ、それはいいけれど……私の方も聞きたい事が」

「もちろん全て余さずお話しするっす! でもでもこの際ですし、私にもインタビューの勉強をさせていただきたいところっす、何せあの荒見アナがここにいるんすからっ!」

 喋りを一切緩めず、流れるように荒見へインタビューを仕掛けていく明莉。荒見も可能な限りの抵抗を試みていたものの果てには根負けし、唖然とする一の前で事件についての詳細を根掘り葉掘り聞き出してしまったのである。

「……ふー、一仕事終えて疲れたっす。けど足を使う時間が節約できたっすね、にひひっ」

「なんていうか……すごいなお前」

 恐らく明莉以上に体力を使い果たして立ち去った荒見達を見送り、一は感嘆の息をつく。

「だが、さっきのあれは荒見アナの成果を横取りするようで気が咎めるな……」

「いえいえ私が勝手にした事なんで、曲輪さんはお気になさらずっ」

 ぴっ、と明莉が手を上げて屈託なく笑い。

「――それに、あれは所詮目先の功名心につられただけの、真実に向かおうとする気概もプライドもない相手です。変な気遣いは無用ですよ」

「真実……」

 その瞬間だけどうしてか明莉の声音が冷淡なものになった気がして、一は目をしばたたかせる。

 二人は土手沿いに現場まで歩きながら、荒見から得られた情報を話し合う事になった。

「第一発見者はゴミ出しに近くのアパートから顔を出した主婦っすね。河川敷の方で争うような怒声が聞こえて来たのを不審に思い、恐る恐る見に行ったようっす。するとそこには大量の人間が倒れており、次いで何者かが離れていくのを目撃したと」

「なるほど……じゃあ犯人は、様子を見に来た主婦を攻撃したりはしなかった、と」

「はい。気がつかなかったのかどうなのか分からないっすが、それで慌てて救急車と警察を呼ぶ事ができたわけっすね。おかげで怪我人も大事には至りませんでした」

 そもそも、その犯人は何が目的だったのだろう。格闘家達が百人、たまたま河川敷に居合わせるなどありえないし、ならば何らかの方法で呼び集められたか、自ら集まったかのいずれかのはずだ。彼らが互いに殴り合って自作自演でもしたのでなければ、犯人はほぼ計画的に彼らを襲撃した事になる。

 それはなんのために。私怨。名誉欲。前後の行動を確認する限り、どれも違う気がする。

「他に目撃証言とかはないのか?」

「一応、まだあるにはあるっすけど……これは後に回した方がよさそうっすね。先に現場を検めてみましょう」

 たどり着いた河川敷は立ち入り禁止のテープなどが巻かれていたが、事件からさして時間が経過していない事もあって現場の状態はそのままのようだ。

 遠巻きにしていても、凄まじい荒れ具合なのが見て取れる。格闘家達のものと思われる大量の足跡に、土はえぐられて血痕のようなものまで飛び散り、戦争でも勃発したような形跡に恐怖を覚えそうになる。当たり前だが所持品といった手がかりは見当たらない。

「こんな惨劇が昨日の夜に起きて、こうして白日の下にさらされたわけか……」

 それこそ部長が暴れでもしないとこうはならない、という感想だ。そう思うと鳥肌が立ち嫌な汗が浮きそうになる。犯人がいるとして、まさかそいつは部長並の奴なのか。

 いや、あんなのが二人もいてたまるかと自分でかぶりを振って霧散させると、明莉も確認を終えたのか、やや離れた坂の草地へ腰を下ろしていた。

「曲輪さん、ちょっと来て欲しいっす」

 どうした、と近寄ると、隣に座るよう示される。その間にスマホを出していた明莉が、画面を見せてきた。光る液晶には何やら、人名がずらっと並んでおり。

「これ、被害にあった格闘家の人達の名簿っす」

「マジかよ……よくこんなの手に入ったな」

「昨日も調査してましたし、今日も暇を見てネットで情報収集してたんすよね。良かったらどうぞ」

 暇を見て、ってつまり一と行動している時だろう。一見遊んでいるように振る舞っていた明莉は、いつの間にこれだけ調査を進めていたのである。驚嘆するしかない。

「へえ……テレビで見たような名前もちらほらあるな。いわゆる実力者達や高名な師範代とかか? 無名の格闘家も多く混じってるようだけど」

「その中からは取り立てて共通点は見つけられなかったっす。強いて言うなら、とりあえず強そうな人達を集めたんだなー……としか。曲輪さんは何か気づかないっすか?」

「……悪い。俺も似たような事しか思いつかない。けど、櫓のその考え、当たらずとも遠からずかもしれないな」

 強い奴が強い奴に挑む。そこにある欲求はただ一つ。自分の力を試したいから、ではないのか。これは畢竟ひっきょう 、それくらいシンプルな事件であり動機なのかも知れない。

 勝負を挑まれたから、格闘家の端くれとして応じた。結果としては大騒動になってしまったものの、少なくとも本気で後悔しているような格闘家はいないのやも知れなかった。

(ま、それだとますます部長じゃありえないな。あの人にはそんな殊勝な競争精神ないし)

 と、スマホを戻した明莉は今度は何か、銀色の筐体を備えるテープレコーダーを取りだしていた。それを自分と一の間のスペースに起き、こちらへ視線を向けて。

「私の用意できる最後の手がかりっす。これは昨夜、病院に担ぎ込まれたある格闘家の方の部屋を訪れて、事情を聞き取った録音音声になるっすね」

「部屋を訪れて……って、おい、嘘だろ?」

 さっと青ざめる。ここで冗談を飛ばすようならまだしも、多分に事実なのだろう。

「本当っすよ? ただそのせいで今日は遅刻しちゃいまして、皆さんお揃いの時に余暇部の部室へお邪魔するはずが、思わぬサプライズって形になっちゃいましたっす、てへっ」

「てへっじゃねぇよ! お前の行動力はどうなってるんだ……」

 ある意味この河川敷事件の犯人よりやばい。部長とは違う意味で敵に回したくないと、一は空恐ろしささえ感じるのだった。

「二分くらいで済むので、耳を傾けてくれると嬉しいっす。それでは、レッツオン!」

 ぽちっと明莉の指がボタンを押すと、レコーダーから音声が流れ始める。


『……本当にマスコミや警察には隠してくれるんだな?』

『はい、もちろんっす! 取引には信頼関係がつきものっすからね、私はよほどの事がなければ裏切りませんよー?』

 最初に聞こえて来たのは緊迫した雰囲気の男の声。次の底抜けに明るいのは言うまでもなく明莉だろう。しかも内容からしていきなり不穏だ。一体この格闘家に対してどんな取引を持ちかけたのか、途方もない闇を覗きそうなので一は聞き流す事にした。

『……話す事と言っても、そんなにあるわけじゃない。三ヶ月ほど前だったかな、うちの道場にメールが届いたんだ』

『メール、っすか?』

『宛先不明だったから、いたずらとも思ったんだが……内容に目を惹かれたんだ。それは』

 ごくり、と格闘家は唾を飲み込むようにして、一気に言葉を吐き出す。

『――あなたを強者と思って挑戦したい。一人の戦士として……という感じのだ』

『それは……要するに挑戦状という奴じゃないっすか?』

『間違いなく、そうだろう。俺も年甲斐もなく心が浮き立つのを覚えてしまった。何せ昨今、道場ではルールに縛られた稽古や練習ばかり。若い頃に無鉄砲な武者修行やファイトを行った事を思い出して、味わった興奮をどうにも忘れられなくなってしまったんだ』

『ほへぇ……私には分かりませんが、そういう直球な文章に心打たれちゃったわけっすか』

『ただのメールなのにな……文面から相手の実直な性格が窺えたのも好印象だった。だが俺も数多の門下生を持つ身、迂闊な事はできん。対戦場所や時刻なども記載されていたが、さすがに怪訝に感じて知り合いとも連絡を取ったんだ。そうしたら……』

『……その方も似たようなメールを受け取っていた、と?』

『その通りだ。大方の内容は同様だったが、きちんとその流派に則って試合を申し込むような文章でもあった。恐らく我々の事を、存分に調べ上げての行動だったのだろうな』

 ふーむ、と明莉が考え込むように吐息を吐き出す。

『質問なんすけど……そのメールは一体、どの程度の規模まで拡散されていたんでしょう』

『何もメールという形態だけじゃない。俺の知る限りでは手紙も使っていたようだ。パソコンも使わず山ごもりしている武術家や、プライドの高い武芸者……そういった相手の関心を引くために礼を尽くし、手段は選んでいないようだった』

『それはなおの事……怪しいっすねぇ』

『はなから相手にしない者も多数いただろう。しかしその挑戦状を忘れられず、結局受ける事にした者もいた……それが、俺達百人の馬鹿なバトルマニアだったんだ』

『馬鹿……ですか』

 男が自嘲するようなしゃがれた笑い声を響かせる。

『だってそうだろう? 俺達がのこのこあの河川敷に行った後、何が起こったのか知らないとは言わせないぞ。……あの夜、確かに約束は守られた。あの場に、現れたのは――』

 数拍、男が震えるようなうめきを発し、それからさらに声音を小さく、低めて。

『……化け物だった』

『それは……もちろん、強さの指標的な意味で、っすよね?』

『違う、そんなのじゃない……俺も今でも自分の頭を疑ってるんだ。あまりに惨めな敗北を喫したから、無意識にあの時を捏造してしまっているのだと。……だが、違うんだ』

 男は明莉にというより、どこか虚空へ呼び掛けるような上の空で続ける。

『……羽があった。皮膚が赤かった。腕や足が異常に長かった。……そして何か、武器を持っていた。何よりも――その面相は、人のものじゃない……!』

『ちょ、ちょっと待って下さいっす、一度冷静に――』

『俺は正気だ……! あんな、あんなものが悪い夢であってたまるか! 奴は呆然とする俺達に、ものも言わずに襲いかかった。最初の一人が数メートル跳ね上げられて、それで気づいたんだ。自分が、生きるか死ぬかの瀬戸際へ追い込まれている事に』

 涙声のような、笑い声のような歪んだ声色で、男は断続的にしゃくり上げる。

『何人かが応戦した。試合ではなく、ただ生き延びるために。なのに、攻撃は何一つ通用しなかった。避けられた。受け流された。届かなかった。そうして奴が腕を足を振るう度にどんどん薙ぎ倒され、悲鳴が上がって……俺の番が来た。奴は俺の目の前にいたんだ』

 そして、と男は言いかけ……沈黙した。その後何が起きたのか、自分がここにいる事が何よりの答えなのだろう。

『……とんでもなく強かったんすね、その……化け物は』

『ああ。強いなんてものじゃなかった。そもそも人ですらない。俺は叩き伏せられて、だが少しの間だけ意識があったんだ。――最後に見たのは、奴が空へと飛び去る後ろ姿だ』

 笑えるだろう、と男はくつくつ笑う。

『奴はその気になれば、空を飛べたんだ。だってのに俺達と戦った時は、その素振りすら見せなかった。……舐められていた。手加減されていた。……こんな屈辱が他にあるか? 死ぬ思いで戦い抜いたと思ったら、奴はてんで本気を出していなかったなんてッ!』

『お、落ち着いて下さい、傷に響くっすよ……っ?』

 明莉が取り乱す男をどうにかなだめ、話が再開したのは二十秒ほど後。

『これが最後の質問になるっすけど……その化け物は、どこへ行ったんすか?』

『記憶はおぼろげだが……西の、祈願山きがんやま の方だった』

『祈願山……』

『ああ。奴の姿がそこで小さくなっていくのを歯ぎしりしながら見送っていたからな……だが、同じくらい安堵していた。これで死なずに済む、俺は助かったのだと……そう、怖かった。怖かったんだ――……』


 そこで音声の再生が切れた。目の前の明莉が手を伸ばし、ボタンを切っていたのだ。

「この後はまたちょっとお見苦しい、というよりお聞き苦しい事がありましたし、特筆するような有益な情報は得られなかったので停止させてもらったっす」

「そうだな……この人もこれ以上、醜態をさらしたくないだろうし」

 一の声は、自分でも分かるほどに震えていた。恐怖。目に見えるような冷たい影となって湧き上がるおぞましいそれが、全身を縛り付けているようだ。

「にしても、本当なのか……? 化け物がどうとか」

「この方は昨日の今日という事もあってまだかなり混乱してらしたので、私もどうかと思ってるっす。せいぜい、部長さんみたいに異様に強い格闘家の引き起こした事件かと」

 そう。それが普通の受け取り方のはずなのだが、一はどうにも幻覚とは言い切れない、絶望と直に対面した底知れない実感のようなものを男の声から感じ取っていた。

「とにかく、犯人がいるのは間違いないみたいだな。それでそいつは、祈願山の方へ行った、と」

 一と明莉はその場から西――ちょうど西雲高校から真反対にある山を見上げた。

 あの山は世津町の開発が始まるよりも古くからあった。なんでも工事を始めようとした従業員がことごとく不運な事故、病気に見舞われたとかで、いまだ昔日そのままの姿を残しているのである。その化け物とやらはあの山で消息を絶ったのだそうだが。

「祈願山の噂……っていうか伝説。櫓も聞いた事あるか?」

「はい。世津町で生まれ育った子供達ならみんな一度は耳にした事があるはずっすよ」

 だよな、と一も頷く。祈願山はさほど険しいわけでもなく、危険な肉食動物もおらず、むしろ美味しい果物や山菜が採れ、山頂までは日帰りも可能な登山に適した山である。

 けれども同時に、あの山は人の出入りを禁じていた。不良すらも近寄らず、町内会のサイトにも、観光客宛に登山や侵入の自粛を呼び掛けている。その理由は、一達世津町の住人にとって、神聖な霊山的な意味合いがあるからだ。

「寝物語に祖父母から聞かされた、古くからの言い伝え……ネットにも知られていないおとぎ話」

「――祈願山では願いがかなう。だけれど地獄穴じごくあな には近づくな。願いもろとも呑み込まれるぞ……ってやつっすか」

「ああ。誰からともなく語り継がれるこれのせいで、町の連中は大人も子供もあそこに近づかない。その必要もないしな。人の手も入らず、静寂のみが満ちる祈願山に……そんな化け物がいる、ってのか。にわかには信じがたいな」

「でも、根城にするには都合もいいっすよね。誰も来ない上、上がりも下りも楽。近場にはコンビニとかもありますし」

 冗談ぽく言う明莉に、一も苦笑が出る。

「しかし、前々から思ってたんだが、この地獄穴ってなんなんだ? そんなのが祈願山にあるってのか」

「うーん……分からないっすね。文字通りの穴なのか、洞穴なのか底なし沼なのか」

「呑み込まれる、って言うからにはやっぱり穴なんだよな、比喩じゃなく。大人が人を山から遠ざけるのは、そんな危ないものがあるからなのかな」

「それならむしろ、埋め立てようとするんじゃないすかね。いくら工事が遅れたって、実際に人が危険にさらされるなら途中で中止する必要ないはずっす」

 祈願山に開発の手が伸びないのは、当時の重役や名士達が揃ってやめるよう陳情したからだという。

 村が世津町と名を変えてからも、彼らは御三家という大きな権威を司る重鎮として名を残している。

(なんて言ったかな……神……家とかいうのが一つで……)

 ともかくも、彼らと責任者達の間ではもめ事が相次ぎ、あの山だけには近づくな、そっとしておいてくれ――そんなやりとりがあったらしいとは、父や母から聞いた覚えがある。

「今まではそれが当然って感じで意識すらしなかったけど、こうも秘密が重なりすぎるとかえって気に掛かってくるな」

「私もっす。……あの、曲輪さん」

 血のように赤みがかかって来た空の下。明莉が見た事もないほど真摯な目顔で振り返る。

「……私達で暴きませんか? 祈願山がなぜ恐れられるのか。そして本当に化け物は存在するのか」

「それはつまり……行くって事か? 祈願山に?」

「はい。できれば今から……っていうか、元々は私一人で行くつもりでした。今日のお昼休みの時点で」

 明莉は本気なのだろう。好奇心か使命感か、彼女はたった一人で世津町最大の謎、祈願山へ足を踏み入れようとしている。それが分かり、一もしばし口を閉ざして。

「……俺も行くよ。ここまで来たら最後まで突き止めたいしな」

「曲輪さん……いいんすか? もしかしたら、危ないかも知れませんよ?」

「これも取引だ。密着取材は、まだ終わってない。お前が満足するまで付き合うさ」

 一の意思表示を見て取った明莉は、ふと眼鏡の下の表情をほころばせる。それまでの営業用スマイルと違い、心の底からの微笑みのように思えた。

「――ありがとうございます、曲輪さん」

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