神が見守る世界で僕は - side story Ⅰ-

夜狸

- side story [フォータムの冒険者] -


- フォータム共和国 グリーンレインの森 -


巨大な亀が全身を襲う痺れに抗う様に、自身に対峙する5人の人間を睨む



大柄な男が大盾で亀の尻尾を弾きながら叫ぶ

「こんのでかぶつが!全員役割を全うしろ!

 次のプランに移る、ここで決めるぞ」


丸い耳をした女が巨亀の前方に陣取り詠う。

「プラン了解。前方確保。詠唱開始します。」


 巨亀が魔力の高まりを察知し、咆哮を放つ。

風の弾丸が木々を薙ぎ倒して進むが、大戦斧を持った男が間に割り込み、武器に付与された魔法を解き放つ。


「*切り裂け 鎌鼬*」


大戦斧に纏わせた風を全力で弾丸に向かって振り下ろす。


風のぶつかり合いは数秒拮抗するも、籠った魔力量を覆す事は出来ず、刃が霧散する。



しかし、その数秒で援護を間に合わせる能力が彼らクランにはある。



風圧で後方に飛ばされた大男と入れ替わる様に、大盾を持った男が叫ぶ。


「*身体強化:土*/*複合付与:結界・鉄壁*」


その詠唱が完成したと同時に風の弾丸が盾に接触し、爆発でも起きた様な音が鳴り響く。




土煙で何も確認出来ない状態の中、背に透明な羽を生やした女が上空から矢を降らす。


「第2射撃開始する。」



甲羅に隠れていない頭部に矢突き刺さると、ほぼ連続して手足尻尾と矢が突き刺さっていく。




この巨体の相手に矢が刺さったといってもダメージはほぼない。


しかし、矢に塗られた麻痺毒は確実に巨亀の動きの阻害を開始する。




 戦闘開始直後と今回の2度の麻痺毒により動きの鈍くなった巨亀に双剣を携えた青年が肉薄し、甲羅の天辺に手を置き言葉を紡ぐ。


「起点設置。*拘束せよ*」


 彼の言葉をトリガーに四方八方から拘束用の鎖が飛び出してくる。

鎖は起点の上で重なるように対象の動きを封じる事に成功する。



 

 待っていたとばかりに、吹き荒れる魔力の渦が土埃を弾き飛ばす。



「*閉ざされるは白き生命-吹き荒ぶは凍てつく吐息-死した大地に咲誇れ…」



 無傷の女は詠唱を完成させる。


 

 彼女の言葉と共に巨亀の真下に魔法陣が浮かび上がる。



「"フロストフラワー"*」




 魔法陣を中心とした大地に氷華が咲き誇り触れた部分を氷漬けにしていく。



 抗えば抗う程に亀は傷付き体に氷華を咲かせる事となる。




 最後の止めとばかりに、風をまとった大男が大戦斧持って肉薄する。



 大男の道を作らんと、双剣の青年が先導様に走り出す。

 「*肉体強化:火*/*渇望しろ 蛍火*」


火を纏った青年は後から続く風の援助を受けて火力を上げつつ、氷の平原と巨亀の悪足掻きで傷付きながら斬り進む。



 続く男が進む道を作るために。



 その身に宿す火を持って、氷の平原を突き進む。


 


 前だけを見て、己の魔力を体内で溜めるつつ走っていた男が声を上げる。 

 「*肉体強化:風*」


 青年を飛び超えつつ、巨亀の頭目掛けて大戦斧を振り上げる。

 

 「*切り裂け 鎌鼬*」



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- フォータム共和国 ダンジョン都市 [レオパルト]-


日が落ち始め、街の灯が色付き始めた時刻


武装状態のまま集団が店の一角を占拠し祝杯を挙げていた


リーダ各の男が杯を片手に持つと、メンバーが早く始めろと目で催促をする。

「クエスト成功を祝ってかんぱーい!」

「「「「うぇーい」」」」


リーダ格の熊獣人"エーア"が戦いを思い出しならしみじみ言う

「それにしても、今回のグリーンカタパルテは運が良かった。」


同じ熊獣人の"オゥイ"も同様に戦いに思いを馳せながら言う

「あいつの危険察知能力は高いからな、甲羅に隠れられる前に先制で麻痺に出来たのがでかかった。」


そういって二人はグラスの中身を呑み、戦いを思い出す様に目を閉じる。



呆れた様な声で彼らを見ながら蜂獣人の"ビィ"と狸獣人の"シウ"が言う

「どうして熊獣人は酒が入ると、直ぐに回想モードに入ってしまうのかしら?」

「まぁまぁビィさん、ほっといて呑みましょう!

 今日はC級昇格のお祝いなんですから、ため息は次回に取っておきましょう。」

「それは次回ため息付くような何かが起きるって事じゃないかしら。」

「ふふふ、冒険者なんて1回の成功と2回の失敗の繰り返しですよ。」

「それはダンジョンでの冒険の話、地上の任務でそんなに失敗ばかりしてたら村や町は魔獣にやられちゃうわよ!って、この空杯の量どうしたの!?」

「ふふふ、この店のはちみつ酒とても美味しくて。

 それにしても、今日のビィさんはとても美味しそうに見えますねぇ~」

「ちょ、ちょっとなんで近寄ってくるの?私蜂蜜みたいに甘くないからね!!」



 しみじみとハードボイルドする男二人組と、食うか食われるかと騒ぐ女二人組の間に挟まれた犬獣人の"エーデ"は慣れた様に無視を決め込み料理に集中する。


 彼は尻尾をぶんぶん振りながら、どんどん料理を平らげていく。

『うん、この店は料理も美味しい!この鳥肉どうやって味付けしてるんだろう?甘辛くて初めて食べる味だ。』




彼らクラン"母なる音"の呑み会は毎回同じような構図となり、最後までだらだらと続く事が多いのだが、、



エーアがメンバーに話を切り出す。

「みんな、今回のクエストクリアで俺たちクラン"母なる音"はC級に上がった。

 そこで当初の予定通り、地上でのクエストの数を減らし、本格的にダンジョンに挑戦していこうと思うがどうだろう?」


なんとかエーデを間に挟む事でシウから距離を取る事に成功したビィが当然の様に言う。

「賛成ですわ。

 危険も多いですが、報酬も大きい。

 冒険者ですもの、挑戦しなければもったいない。」


それに続く様に、メンバー全員が肯定の意を表す。


オゥイとエーデは獰猛な笑みを浮かべ。


シウは欲望を隠しもしない笑みを浮かべ。



そんなメンバーを頼もしく見回した後、エーアが宣言する。

「よし、今回のクエストの疲れを癒しつつコンディションを整える様に。

 次は地上のクエストを一旦休止し、ダンジョンアタックをしよう。

 D級ではいけなかった、中層を目指す。

 ダンジョンクエストは受けない。

 まずはモンスターの討伐と素材の売却をメインに中層の感触を掴んでいこう」




D級(下級冒険者)からC級(中級冒険者)となった事で、彼らの制限は大幅に取り払われた


ダンジョンの中層以降の探索もそのひとつに過ぎない


ここはフォータム共和国


獣人が多く住む、密林が生い茂る、生命力に溢れた国




中級となった彼らが次に向かう冒険はどうなるのか…




それは神のみぞ知っている。






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