第95話 三日後

 リヴァイアサンとの戦いから三日が過ぎた。


 雨が通り過ぎると一転して晴れの日が続き、一気に蒸し暑くなる。


 黄麻台高校は新しい学校であるため、各教室を始め、主だった部屋にはエアコンが設置されている。


 しかし、本来倉庫となる部屋を使っているオカルト研究部には、そのような贅沢なものはない。


 そのため、熱がこもり、まるでサウナの様になっている。


 そんな地獄のような環境で、秋山冬美は一心不乱に絵を描いている。


 あの日、健作が異界から脱出した後、十魔子はすぐさま霊障被害者の会へ連絡。博之、夏樹、冬美の3人は専用の病院へ運ばれた。


 幸い、夏樹と冬美の心身へのダメージは深刻なものではなく、すぐに退院できた。悪魔も悪魔なりに丁重に扱ったのだろう。無論、心霊業界に対する講習もセットである。


 対して、博之は入院が伸びた。


 神降しの影響はさほどではないが、50口径の拳銃を撃ったことによる腕へのダメージが大きい。骨折というほどの事はないが、未だに痺れが抜けないらしい。


 無意識かつ一時的に身体強化法を使ったとの事だ。


 魔術師が自らの身体に霊気を流し込み、身体能力を向上させる方法だが、一般の人間でも切羽詰まった時にこの力を使うことがある。


 いわゆる、火事場のバカ力である。


 さらに、博之は長期間悪魔に憑依されていたことで、霊的素養が開花している状態にあった。身体強化法が発動する確率は、一般人のそれよりも高かったはずである。


 そして、リヴァイアサンである。


 彼の遺体?は、絵の中の異界に残されたままだった。そのまま異界の消滅するとともに、リヴァイアサンも消滅した。


 と、なっていれば話は簡単だったのだが、そうは問屋が下さなかった。


 今回のように絵の中の異界が消滅する際、その中にあるものは、物理的に存在するものは外へ放り出されるが、霊的存在の場合は異界と共に消滅するか、または媒体となった紙等の物体に封じ込められている状態となる。


 リヴァイアサンは後者であった。


 彼は死に、その身体は魂魄結晶となるはずだったが、そのためには彼の身体を構成していた穢れた霊気を浄化する必要があった。


 そのプロセスを経ないまま異界が消滅してしまったため、彼の魂魄はキャンバスに染み付いてしまっている。


 即ち、キャンバスの形をした魂魄結晶というべきものになったのである。


 困ったのは健作達である。


 本来、妖怪を倒した際に得られる魂魄結晶は倒した者の所有物となる決まりであるが、キャンバス一つといえど学校の所有物である。心霊業界のルールを押し付けてネコババするわけにはいかない。さりとて、さりげなく戻しておいて知らんぷりするわけにもいかない。何がきっかけでリヴァイアサンが復活するかもわからないからだ。


 そんな折、退院してきた冬美が、このキャンバスに絵を描きたいと言い出したのである。

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