第84話 夏樹の望み
「い、いや、こないで……」
博之を蹴り飛ばしたメフィストに見つめられ、夏樹は恐怖に震えている。美術室の扉はびくともせず、無駄だと分かっていても、壁を背に後ずさるしかない。
『怖がらないで。僕は君の味方だよ』
夏樹のスマホは上を向き、メフィストの上半身を浮かび上がらせている。
『君の願いを叶えにきたんだよ。春川夏樹ちゃん』
「だったら私達を解放して! うちに帰してよ!」
夏樹は気丈に言い放つが、メフィストやれやれという風に首を振る。
『自分を偽っちゃいけないなぁ夏樹ちゃん』
そう言うと、メフィストは夏樹の背後に周る。そこは壁だが、メフィストは難なくすり抜けた。
『君の望みは彼女だろ?』
壁から顔を出して、夏樹の耳元に囁き、腕を出して冬美を指差す。
『彼女が、元の地味〜な女の子に戻る事が君の望みさ。そうだろ?』
「そ、そんなこと―」
『違わないさ。だからオカ研なんて胡散臭い部に駆け込んだんだろう? 他の人は良い事だと言ってたのに』
「だ、だって、それは―」
『君は冬美ちゃんが変わっていくのが許せなかったんだ。何をやっても自分以下な友達って得難いものだからね』
「ち、違う! そんな事ない!」
『唯一、彼女が君に勝っていたのが絵だ。君はそれが許せなかったから、邪魔をした』
「あ、あれは……」
夏樹が言い淀むのを、メフィストは見逃さない。そっと、彼女のこめかみに指を触れる。
『まぁ、口ではどんな事を言ったとしても、これが君の本心さ!』
次の瞬間、博之と冬美がうつ伏せに倒れ伏した。
「お、重い……」
博之が悲鳴混じりに叫ぶ。
どうやら凄まじい重力が降りかかっているようだ。冬美の方も同様であろう。
「な、何をしたの!? やめてよ!」
『僕じゃない。君がやってるのさ。僕の能力は人間の心に眠る願望を形にする事。ま、誤差レベルで、ちょ〜っとだけ、僕の解釈が入るけどね』
「わ、わたし、こんな事望んでない!」
『ふふふ、自分じゃあ気づかないものだよ。なに、恥ずかしい事じゃない。人間は下を見て生きているものさ。何をしても自分以下って子は、友達に一人は欲しいよね。アハハハハハハハハ』
メフィストは、とても面白そうに笑い出した。
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