第14話 分霊人の倒し方
振動が収まり、気が付くと健作の周囲は黒い森となっていた。
枝も葉も幹も黒々と染まった熱帯雨林のような森だった。しかし、じめじめしているが暑さは感じず、むしろ寒々しい感覚だ。生き物の気配もない、形だけの熱帯雨林である。光源らしきものもないのに、目の前の光景が見えるのは、ここが異界であるが故の事だろう。
「竜見さーん。博之ー」
呼びかける声も虚しくこだまする。
『は~い』
返事が返ってきた。しかし、それはメフィストの声だった。
「お前は博之じゃないだろうが!」
健作は虚空に向かって叫ぶ。
『つれないな~。しっかし、君も物好きだね~。女の子にいいとこ見せたいからってこんなとこまで来ちゃってさ』
「友達を助けるためだ!」
『ま、そういう事にしておこう。でもさ、君、分霊人になったからと言って浮かれてない? 確かに分霊人になると、力は強くなるし、感覚も鋭くなる』
「え、そうなのか?」
健作は自分の手を見た。確かに、先ほどは消火器を片手でまっすぐ投げ飛ばしたり、メフィストを持ち上げたりした。隣にいた十魔子の心臓の音も聞こえた。以前ならばできなかったことだ。
『あ、やっぱり気づいてなかった? ま、君だしね。でも健作君、分霊人になった君には、ある致命的な弱点が生まれたんだ。それをわかってるかな?』
「弱点だと?」
『ウフフ、君は前世でどうやって死んだ? 車に踏まれてペシャンコ? 冬を乗り切れずに凍死? 餌が見つからなくて餓死? 交尾で力尽きた? それとも―』
森がざわついた。何かが移動してるようだ。かなりでかい。
その気配を感じとった健作は、なぜか全身が凍り付くような感覚を覚えた。この気配には覚えがある。ひとりでに歯がガチガチとなりだし、全身が震えだす。逃げなければと頭ではわかっているのに足が動かない。
やがて、木々の間から、赤と黒のまだら模様のそれが顔を出す。
「あ……あ……」
『やっぱり蛙らしく蛇の餌になっちゃったのかな~。あひゃひゃひゃひゃひゃ!』
そう、それは人を丸のみにできるほど巨大な蛇であった。蛇は木の間を縫うようにゆっくりと健作に近づいていく。
健作の脳裏に前世での最期が鮮明に蘇る。
捕食者に遭遇し、食われ、呑み込まれていくときの想像を絶する恐怖、絶望、無力感、諦観、そのすべてが今の健作に押し寄せてきていた。全身から汗が滝の様に流れ、股間には温かいものが流れる。
蛇はチロチロと舌を出し、健作の目前に迫る。感情のない真っ黒な目が健作を見る。そして、ゆっくりと口を開く。
死が目前に迫っている。それに対する覚悟などありはしない。ただ呑み込まれていくだけだった。
「お母さん……」
健作は絞り出すように呟いた。
その時である―
「大霊波!」
光の砲弾が蛇の頭部に炸裂した。その直後、気の間から十魔子が飛び出して健作に向かって疾走する。
蛇は一瞬よろめいたが、意に介した様子もなく、再び大口を開けて健作に迫る。
十魔子が跳ぶ。間一髪、健作に飛び掛かり、地面に転がった。二人の頭上を蛇の口が通過する。
蛇はすぐに鎌首を二人に向ける。
十魔子はすぐに掌を向け、
「大霊波!」
十魔子の掌から眩い閃光が発せられた。攻撃力はない、目くらましようの技である。
「シャァァァァ!」
蛇が咆哮し仰け反る。
続けて、十魔子は手のひらに小さな光球を形成し、蛇に投げつける。光球は蛇の周りを浮遊し始める。
蛇は、目くらましが効いているのか、目を閉じている。しかし、目だけに頼っているとは限らないので、こうして囮を作り相手を誤認させるのだ。
案の定、蛇は光球の方を攻撃し始める。しかし、光球は風に舞う木の葉の様に所在なく浮いていてなかなか捕まらない。
その隙に、十魔子は健作の体を引っ張って森の奥へ入っていく。
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