第6話 復活
健作は、未熟な人形使いが操る傀儡人形の様に、おぼつかない足取りで立ち上がり、頭を下げたままゆっくりと悪魔に向かって歩を進める。
その様を、悪魔も
そして、悪魔の目の前で立ち止まり、顔を上げる。
健作の顔には、黒い血管が浮き出たかのようなどす黒い筋が幾重にも走っていた。その顔色は全くの無表情で、人間的な感情を微塵も読み取れない。
「うわ、マジかよ。ついてねぇな……」
ため息をつく悪魔に健作は鼻を近づけて、しきりに匂いを嗅いでいる。
それが終わると、今度は悪魔の顔に自分の顔を近づけて、その目を凝視する。
「や、やぁ、健作君。元気そうで何よりだ。はは……」
悪魔が愛想笑いすると、健作は少し顔を離す。
次の瞬間、悪魔の顔を掴んだ!
「!?」
一瞬の事で悪魔は対処できない。
健作はそのまま悪魔の体を持ち上げ、無造作にぶん投げた。
「キャア!」
十魔子の頭上を悪魔が通過。反射的に十魔子は頭を下げる。
悪魔は体育館の壁に激突。壁が崩れて悪魔が瓦礫に埋まる。
健作は膝を曲げ、一瞬力を溜めてから大きくジャンプ。
悪魔が瓦礫から這い出てくる。
「いててて……うわぁ!」
そこに健作が降ってきた。とっさに横に転がる。
悪魔がいた場所に健作が着地。すさまじい衝撃で床が陥没し、大穴が開く。しかし、健作は何事もなかったかの様に穴から飛び出して悪魔に迫る。
悪魔は態勢を崩していて立ち上がれない。
「調子に乗んなよ!」
悪魔は黒い槍を形成し、健作の顔面に放つ。
ガキィッ!
鈍い音とともに、健作の頭が仰け反る。
「やった!」
喝采を上げる悪魔。しかし、健作はゆっくりと頭を戻す。その口には悪魔の放った黒い槍が咥えられていた。
「ワァオ……」
目を丸くする悪魔をよそに、健作は棒状の菓子を食べるように黒い槍を咀嚼しながら口に含んでいく。そして十分にかみ砕き、呑み込む。最後に唇をなめてきれいにする。まるで獣の食事である。
そして、悪魔に向かって歩き出す。その目は悪魔を一点に見定めて決してぶれることはない。それは対象を必ず排除するという強固な意志、いや本能を感じさせる目であった。
「よし、わかった!」
突如、悪魔が手を打って立ち上がった。
「もう遅いことだし、今回は引き分けってことで、僕はもう帰るから、君たちも帰るってことで、どうかな? ん? じゃ、そういうことで」
一方的にまくしたてて後ずさろうとする悪魔の頭を健作が一瞬で掴む。
「あ、やっぱり」
健作は何の躊躇もなく悪魔の腹を突き破らんばかりの蹴りを入れる。
「グェ」
悪魔の体がくの字に曲がる。そのまま悪魔の顔面を床に叩きつけた。
そして、大きく足を上げて、悪魔の頭を踏みつける。何度も何度も、踏みつけるたびに体育館が揺れる。
「ちょっと、顔はやめてよ」
なおも減らず口をたたく悪魔の顔を踏みつけ、そのまま力をこめる。
悪魔の端正な顔がひしゃげていく。
「ま、まて、待ってくれ健作君。話し合おう! 話せばわか―」
グシャ
不快な音が体育館にこだまして、静寂が訪れた。
悪魔の体は溶け、床に黒い人型の染みを作った。
十魔子はこの一部始終を見ていた。
凄惨ともいえる健作の力に、ただ圧倒されていた。加勢するべきか否か、そんなことも考える余裕すらなかった。
そして、すべてが終わった今、彼女の心にあるのは奇跡が起こったことに対する歓喜だろうか? それとも健作に対する恐怖だろうか?
一方、健作は呆然と突っ立っていたが、突然十魔子の方に振り向いた。
「!」
その顔には黒い飛沫が飛んだあとが生々しく残っている。
健作は一足に跳んで十魔子の目前に着地。獣の様な姿勢で座って十魔子と目を合わせる。
「えっ!?」
驚く十魔子。健作は彼女をじっと見ている。
大丈夫、今の健作はこちらから手を出さない限り攻撃してくることはないはず。十魔子はその知識を反芻しながら身を固くして、健作から目を離さない。
永遠にも感じられる一分。不意に健作が笑った。それは母親にあやされる赤子のそれに似て、無邪気でどこかほっとする笑顔だった。
健作は十魔子の膝に頭を置き、胎児の様に体を丸める。
「ちょ、ちょっと!」
十魔子の抗議をよそに、健作は寝息を立て始めた。
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