第4話、『 優等生 』

 もし、全員が優等生だったら・・・

 『 優等生 』と言う、言葉自体が存在しなくなります。 全員が『 普通 』になるのだから。

 幾多の人々の中に、それなりの個人差があるからこそ、『 優等生 』が存在します。 強いて言えば、『 普通 』『 アホ 』『 馬鹿 』がいるから、『 優等生 』の存在が認知されるワケです。 まあ、逆説をすれば、優等生の落ちこぼれが『 その他、大勢 』となりますが・・・


 『 優等生 』が社会を牽引し、『 その他、大勢 』が社会を構成する。


 それは確かに現実です。

 でも、違う観点から考えてみましょう。


 いくら、社会を牽引する優秀な者がいても、それらを構成する者たちがいなくては、社会は成り立たちません。 新しい街を創り、公正なルールを決めても、その街に『 住む者 』がいなくては、ただの机上の空論なのです。

 つまりは、人の上に立つ者は、その他の人たちに支えられて、初めて真価を発揮するのです。

 指導者も民衆も、互いに認め合う存在でなければなりません。

 ただ、ここで私は『 優等生 』の、唯一の欠点を指摘してみましょう。


 冷静に己を判断して、現実と向き合い、来るべく未来を予想する。


 これは、優等生である為に必要な、多数ある要因の内の数個です。

 出来るのであれば、確かに素晴らしい。 予想される危機を、余裕を持って回避出来るのです。 また、対処も出来る・・・


 しかし、予想外の事は、意外と起きるものです。

 有能な者は、現時点での状況把握を優先する為、この『 予想外 』の事に関しては、意外と無頓着です。

 以下のロープレを吟味してみて下さい。


 来月、500円のモノが欲しい。

 月に1度、100円がもらえる。

 だが、毎月50円の支払いがある。

 今の貯蓄は、550円である。


 有能な者・・ 『 優等生 』であれば、購入を止めるか、もう少し貯蓄を増やしてから購入するでしょ う。 まあ、この場合、ほとんどの人も、それに倣うと思われます。


 だが『 アホ 』は、ここに、究極な仮説を立てます。

『 もしかしたら、来月、臨時収入があるかもしれない♪ 』


 非常に安易で、ある意味、他人任せな発想ですが、『 アホ 』は、そう言った仮説を立てるのです。

 『 臨時収入 』とは、いわゆる『 予想外の事 』と理解して下さい。 説明を簡単にする為に、金銭的なロープレを記してみましたが、思想・行動、全てにおいて『 もしかしたら 』という予想外の概念を、基本的に、常に抱いているのが『 アホ 』の特徴です。

 まあ、楽天家なのでしょう。

『 優等生 』には、この感覚がほとんど無い。

 彼らにとって、それは単なる『 妄想 』であり、希望的観測以外の、何物でもないからです。

 つまりは、非常に現実的。 絵に描いた餅は食えない、と言う訳なのです。


 自分が理解出来るもの以外は、基本的には信用しない。


 それが『 優等生 』です。

 その思想が、いけない事だとは言わない。 あえてリスクを負う選択など、本来は無い方が良いのだから・・・


 だが、未来の可能性を、自分自身で摘み取ってしまう事にならないか・・?


 未来など、誰にも分からない事です。 今ある情報など、未来では、常に変わります。

 ・・まあ、不測の事態が起きたとしても、その都度『 優等生 』は、進路変更する事が出来ますけどね。 また、不測の事態が起こらないよう、今ある情報を最大限に活用し、未来を予測する事も出来ます。

 だけど、先記した『 楽天的 』とも言える、想定外の事柄に関しては、『 未来の可能性』としての認識は、出来ないのです。 ・・いえ、認識したくないのです。 優等生としては。


 ここで登場した『 可能性 』。

 コイツが、クセ者です。

 ハッキリ言って、非常に抽象的です。 あるかもしれないケド、無いかも・・? 

 そうなるかもしれないが、ならないかも・・ etc・・・


 微妙に、期待性を持たせる語句であると言えるでしょう。

 期待させるだけさせておいて、実は、何も実を結ばなかった・・ それでも、「 可能性はあった 」と言うのです。

 こんな不安定な要素だからこそ、『 優等生 』は躊躇しません。 最初からバッサリと、その存在を切り捨てるのです。


 危惧するくらいなら、最初から選択しない。


 ある意味、完全主義です。

 予定は、紅玉の如く磨き上げられ、曇りなど、一片たりとて無い状態が『 優等生 』には、間違いなく心地良いのです。

 従って、自分が立てた予定が、何らかの事情により乱されると、途端に機嫌が悪くなります。

 それも、そのはず。 予定が乱れる『 可能性 』は、最初から考慮されていませんから。 『 予定外の事 』は、『 可能性 』と同じく、頭の片隅には置いてあるかもしれませんが、『 予定 』の中には、プログラミングされていないのです。


 『 優等生 』は、常に、自分の予定を安全に履行する事に、全ての意義を置く。


 『 アホ 』にとっては、ココは、理解し難いところでしょう。

 不測の事態に遭遇した場合、『 アホ 』の考え方としては、以下の通りです。


「 ま、何とかなるさ 」

「 なっちまったモン、仕方ないだろ 」

「 ま、いいか 」


 出ましたね。

 楽天主義と解釈されても仕方の無い、ある意味、ノー天気感覚。 『 アホ 』は、考えを吟味する事が完璧に欠乏している。

 まあ、不測の事態が発生しても、何とか切り抜ける技術を行使するところなどは、『 優等生 』に勝るとも劣らないモノがあるのだが・・・


 実は『 優等生 』は、考えや予定を吟味している間、わずかな余地ではありますが、『 予想外の事 』を視野に入れている現実があります。 まあ、『 もしかしたら・・・ 』程度の事であって、その為の対処法は、わざわざ考慮していない場合がほとんどですけどね。


 考慮し、考え抜かれた事だからこそ、それ以外の『 予想外 』は、有り得ない事として解釈する・・・ この辺り、ナルシスト的な部分も一部、見え隠れしています。

 優等生は、完全・完璧主義が目標であり、モットーでもあるのです。


 『 優等生 』の欠点・・ それは、予想外のプラスアルファを、意見・予定に盛り込めない事でしょう。 特に、将来・未来に関しては、現在の情報のみに頼り、それらから算出された未来しか信じられないし、念頭にありません。

 『 もしかしたら・・ 』と言う、ある意味、安易な発想は一切ありません。

 それだけに、どことなく冷たい感覚です。 表現・発表に際しては、人間味に欠ける場合もあるのです。



 人生、80年。

 医療技術の進歩や、衛生面などの生活レベル向上に比例し、平均寿命は昔と比べ、格段に上がった現在。 女性に至っては、その80年をも越えています。 私などは、その平均寿命から換算すると、人生の半分以上が過ぎた計算になります。

 もし、現状の生活に本人が満足していない場合、『 優等生 』だったら、その人生を、どう思うでしょうか?


 平凡な人生に憂え、会得して来た技術・勉学が、現在の状況に活かされているかどうか・・ 


 時には哲学的観点に立った考えも視野入れ、常に自分を自答する。

 いつの時代も、いつになっても『 優等生 』は、考える事・勉強する事が好きなのです。

 『 アホ 』だって、それなりに想う事は幾多もあると思いますが、決定的に違うのは『 後悔しない 』事でしょう。 先に記した、楽天的な考えも加味されているとは思いますが、くよくよしない。


 『 アホ 』の心理を、下記に記してみましょう。


「 考えたって始まらない。 それなりに努力して来た結果なんだから、仕方ないだろ? そのうち、芽が出る事もあるさ 」


 そう思わない『 アホ 』もいる事でしょう。 優等生にだって、過去にはこだわらない者もいます。

 だが『 予定 』されていた未来が想像と違う時、『 優等生 』は、ふと憂鬱になります。 加えて、成功を収めている者・大した努力もしていないのに優雅な生活をしている者などに対しては、嫉妬心を覚えます。 そして自暴自棄になる。 自分は一体、何をしているのか、と・・・


「 努力して来たのに、結果が出てないなんて・・ よく、平然としていられるな! 芽が出る事って、一体、いつなんだよ! その日暮らしを、美化するな!」


 そんな、『 優等生 』諸君らの、怒りの発言が聞こえて来るようですね。

 現実主義の『 優等生 』たちには、今が全て。 当然の発言でしょう。 吟味された『 予定 』が狂う事は、一大事なのです。


 『 優等生 』の心理の根底には、経済力への執着心があります。 何故なら、金銭は、現在の生活水準を図る手段に最適だからです。 現実的に精査出来、一目瞭然。 とりあえず経済力があれば、たいていの危機は乗り越えられるし、イザと言う時に安心、頼りになる・・・


 ここで驚くべきは、『 アホ 』は経済的危機に対し、非常に柔軟であると言う事でしょう。『 住めば都 』を、人生的に拡大解釈し、それなりに暮らしていく。

 勿論、底辺の暮らしからの脱出は、常に考えてはいるが・・・

 金が無くても、とりあえず、何とか暮らして行く。

 これは『 アホ 』にとって、大きなポイントです。

 

・・・究極に考えれば、だから『 アホ 』は貧民層に多いのかも・・・



 次回、『 アホの可能性 』をお送り致します。

 ご清聴、ありがとうございました。

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