第3話、『 アホ 』の未知数

「 お前はアホか? 」

 関西地区で、人にそう言われても、むしろ愛着を持って接しているように感じるそうです。 反対に、関東地区では、小馬鹿にした感覚で受け取られる・・・

 確かに、地域格差もあるかもしれませんが、『 アホ 』フリークな私としては、「 馬鹿か? 」よりは、「 アホか? 」の方に人間性を感じます。

 以前、講義をしている専門学校で、表現法の授業の際、生徒たちにアンケートを取った事がありました。


 『 馬鹿 』と、『 アホ 』。

 どちらに人間味を感じるか? です。


 罵倒する場合、冗談的に言う場合を問わず、インスピレーションで答えさせたところ、結果は、圧倒的に『 アホ 』でした。

 TVのバラエティー番組の中で、出演しているタレントたちの会話の中には、盛んに『 アホ 』と言う言葉が登場します。 そういった番組をよく観る若年層へのアンケートだったから、そのような結果が出たとの推察もあるかもしれませんが、中高年層にアンケートを実施しても、おそらく同じような結果が出たのではないか、と私は思います。

 楽しげな会話によく登場する言葉として『 アホ 』がある訳ですが、私の崇拝する『 アホ 』とは、意味合いが違います。

 ・・そう、私の言わんとする『 アホ 』には、限りない可能性を秘めているのです。

 それにつきましては、また、後ほど書くとしましょう。


 では、どんな風に『 アホ 』と『 馬鹿 』は、使われているのか?

 下記に、様々なシチュエーションを記してみました。


「 ったく、お前はアホか? 」

 そう言われた本人には、ある意味、お茶目・愉快な言動の経緯が往々にあるもの。 呆れた行動以上に、性格すら疑うような行動をした者への評価には、「 お前は馬鹿か? 」の方が適切なはず。

 ・・そう。 『 アホ 』と言わしめた現状には、憎めない相方への、純粋な愛情すら窺い知る事が出来るのです。 特異な言動をしたにも関わらず、尚且つ、周りの者たちからの友情・愛情の念を失わせない・・

 『 アホ 』には、人間性・社交性を偏屈させない、恐るべき特性が隠されているのです。


「 馬鹿だねぇ・・・ 」

 50代以上・・ もしくは、60代以上の高齢の方がよく使う表現です。

 この場合、『 馬鹿 』とは言ってはいるが、限りなく『 アホ 』に近い。 同情の意が含まれており、言った相手への愛情の裏表を比喩しています。 これは、地域にもよります。 主に、東日本では『 馬鹿 』を使用する事が多いようです。


「 馬鹿じゃね? 」

「 馬鹿みたい ( 発音:バッカみたい ) 」

 共に、若年層・・ 特に、関東圏を中心に使用されますが、これらには、愛情は感じられません。 明らかに、相手を見下げています。

「 アッホみたい 」とは言わない。 やはり、『 馬鹿 』なのである・・・

 相手を気遣う配慮、というものは、『 アホ 』からしか、感じ取る事は出来ないようですね。


「 そんな事、全然、知らなかったんだ 」

 『 アホ 』と言われた後に続く、弁解。 そのセリフは、状況によって様々に変化するとは思いますが、知らなかった事に対し、本人は情報を得る訳であり、1つ勉強する事となります。 これも『 アホ 』と呼ばれた者の、ある意味での特権でしょう。 親愛の情に接しつつ、本人は、未知の知識を吸収する事となるのです。

 先記の「 馬鹿じゃね? 」や「 馬鹿みたい 」でも、知識は吸収する事は出来るでしょうが、自分と相手には、決定的な上下関係が存在しています。


 先記した「 馬鹿じゃね? 」と、「 馬鹿みたい 」のロープレを記してみましょう。


「 バッカみたい 」

「 え~、だって知らなかったんだもん 」

「 アンタ、そんな事も知らないの? あのね、ここは・・・ 」

 明らかに、無知者に対して有識者が、高飛車的に『 教える 』図、です。


「 馬鹿じゃね? 」

「 だって、知らないんだもん 」

「 そんな事、ガキだって知ってるぜ? 」

「 ンだと? コラ 」

 下手すると、ケンカです。 友情を育むどころの話ではありません。


 では、『 アホ 』の場合、どうでしょうか?


「 ったく、お前はアホか? 」

「 だって、知らないんだから仕方ないだろ? 」

「 あのな、いいか? ここはだな・・・ 」

 

 同じ、教える状況・言葉であっても、なぜか『 アホ 』の方が、人間味が増す対話となる場合が多いように思えませんか? 人格とは違いますが、『 アホ 』と言う言葉が持つ、不思議な効力なのです。


 まあ、先記した通りのセリフ展開になるとは限りません。 『 馬鹿 』の場合と、会話を置き換えてみたとしても、展開には不自然さは無く、無理もないかもしれませんね。

 でも、『 馬鹿 』の場合は、どうしても会話に嫌味が増す場合が多い・・・ どうかすると、冷たい感じすら漂います。 解説せず、会話をシャットアウトする場面すら、想像出来ます。

 次の場合がそうでしょう。


「 馬鹿じゃね? 」

「 だって、知らないんだもん 」

「 マジかよ。 信じらんね~ 」


 ・・会話終了である。 これ以上、続かない。 放置パターンです。

 相手が知識を吸収するかどうかなどは、言った本人には関係が無く、どうでも良いと思っています。

 仮に、その後、知り得なかった情報の説明があったとしても、やはり、相手を見下げた雰囲気の漂う会話になる事が多いでしょう・・・


 ここまで書くと、あまりに『 アホ 』を擁護しているように見られるかもしれませんが、よく考え、想像してみて下さい。

 あなたの身近で、同じような展開が、必ずあったはずです。 もし、1度も無いのであれば、あなたの周りに、友人は1人もいないのかもしれない・・・



 いかがでしょうか。

 少々、強気の発言でしたが、極論すらも消化してしまう、アホの実力。 恐ろしい・・・!


 次回は、ある意味、アホの天敵『 優等生 』をお送り致します。

 ご清聴、ありがとうございました。

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