第5話
とにかく適正とか加減といった日本語を知らない。
唯一いい点は、多すぎることはあっても足らなくなることがないことだ。
あまればこのあと、家で食べればいいだけの話だ。
正人は生まれてこのかた包丁と言うものを手にしたことがなく、今後も手にするつもりがないと言うことなので、必然的に食事のしたくは全て私一人でやることになる。
その代わりと言ってはなんだが、正人はテントを建てはじめた。
しかしそんなもので何十分とかかるわけがなく、そのうち建て終えてしまった。
手持ち無沙汰なときに正人はスマホをいじるのが常なのだが、ここには電波が届いていない。
だから服が汚れるのも気にせずに、今は地面をごろごろしている。
ちょっと目障りだったが、気にしないようにした。
そして料理をしながら正人ではなく、他の二組を観察した。
手前の家族連れはやっぱりおかしかった。
私と同じように夕食の支度をしているのだが、父親も母親も一言も口を開かない。
男の子が遠慮がちに数回話しかけたが、二人とも返事をするどころか、子供のほうを見ようともしなかった。
男の子もあきらめたのか、さきほどから両親と同じようにだんまりをきめこんでいる。
――家庭内に何か問題がありそうだわ。
そう思ったが、もちろん赤の他人の私にはどうでもいいことだ。
変になれなれしく話しかけてくる人間よりも面倒がなくて助かった、と思うことにした。
その先のカップルは、DQN男が大きな声で取るに足らないことをしゃべり続け、それに対して重量級女が無言でうなずいていた。
それの繰り返しだ。
私も正人も何も言っていないので、今聞こえているのはDQN男の声だけだ。
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