第6話

それにしてもすぐ目の前にいる彼女に対して、あんなにも大きな声が必要なのだろうか。


頭が悪いから仕方がないのかもしれないけど。


そうこうしていううちに夕食の準備が整い、正人と二人で食べた。



夕食をすませて正人が用意した花火を終えると、特にすることはない。


あとは二人で会話をするだけなのだが、それもはずまない。


隣のわけあり家族の会話は夕食前から完全に途絶えてしまっている。


その先のDQN男の声は必要以上によく聞こえるが、女のほうの声は未だに一度も耳にしていない。


それにしても七人もいて開放的な野外で、一人しか声を出していないなんて。


DQN男の大きな声は浮きまくり、わびしさを余計に増しているだけだ。


実は私はキャンプに来るのは二度目で、場所もいっしょに行った男も違うけど、あの時は十四人ほどの人がいて、さかんに交流が行なわれて、たいそう賑やかだったのを覚えている。


それなのに今回はどうだ。


――やっぱり来るんじゃなかったかも。


でも私には一つだが大きな希望があった。


それが頭からはなれずに、正人との会話がはずまない。


正人は正人のほうで、何か強く気にしていることがあるようで、それゆえ私と同じように会話がはずまない。


この欠点だらけの男には、一つだけいいことがある。


なにせわかりやすいのだ。


うそはすぐにばれるし、隠し事なんて不可能だ。


だから美咲との浮気も、私にはすぐにわかった。


それとなく探りを入れたら、これ以上はないくらいにぼろが出まくりだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る